財務戦略
2020/01/24
企業経営において資金調達の手段を知っていることは重要です。
資金調達の手段は、銀行からの融資、出資、助成金や補助金などさまざまあり、企業の成長サイクルによっても資金調達方法は変わってきます。
今回は、企業の成長サイクルに適した資金調達の方法や、意外と知られていないM&Aによる資金調達についてお伝えします。
目次
企業においては、創業(起業)からはじまり、成長期、成熟期、衰退期と、企業のライフサイクル(創業期/成長期/成熟期/衰退期)があり、そのライフサイクルに適した資金調達方法があります。
創業期の主な資金調達方法
金融機関からの創業融資、助成金、補助金、自己資金
この時期は創業したばかりで、売上高の確保が難しく、今後の売上拡大のための先行投資などコストがかかる時期です。
資金調達の方法も、自己資金、創業融資(各金融機関や日本政策金融公庫)などからの調達がほとんどです。
金額に関しても、数百万円から1,000万円程度が限度ではないでしょうか。
中には、素晴らしい技術や商品を開発しベンチャーキャピタルなどからの投資を受ける企業もありますが、そういった企業は稀です。
その他、金融機関からの調達には限界があるため、助成金や補助金などを利用して売上拡大のための資金調達を行うのがこの創業期と言えます。
成長期の主な資金調達方法
金融機関からの融資(プロパー融資を含む)、助成金、補助金
投資家(VC)からの投資事業会社からの出資や私募債の引き受けなど
成長期とは創業3年目以降程度を指し、売上及び従業員も増えていく時期です。
この時期で注意しなければならないのは、資金繰りの管理です。勢いが良いので急激な拡大や無理な投資が増え、黒字なのに手元の資金がショートしてしまう、いわゆる黒字倒産が非常に起こりやすい時期でもあります。
また、急激な拡大により、会社としての管理体制構築が行えず、顧客に迷惑をかけた結果、大きな負債を抱えてしまうのもこの時期の特徴と言えるかもしれません。
ある意味この成長期の会社のあり方で、その後の会社が歩む方向が決まると言っても過言ではありません。
この時期になると金融機関からの融資の枠も増えて多くの借入ができる環境になります。金融機関からの融資で言えば、信用保証協会付融資からプロパー融資へと切れ変わる時期でもあります。
また、業績が好調であり、IPO(上場)を目指す企業にとっては、ベンチャーキャピタルや他の投資家からの資金調達、私募債の発行など多種多様な資金調達を行っていく時期でもあります。
成熟期の資金調達方法
金融機関からの折り返し融資、プロパー融資
成熟期は企業にとって今後の方針に非常に迷う時期かもしれません。売上高などは安定し、一つの事業での単独での売上の限界も見えてくる時期です。
この時期になると新たな新規事業への投資を検討したり、M&Aでの企業買収を検討したりと、自社以外のリソースを使って企業の成長を図っていきます。
資金調達の方法も成長期より選択肢としては少なくなります。ある程度企業として安定してきた状況なので、ベンチャーキャピタルなどからの投資などは難しい時期です。
また、金融機関からの融資についても、長年企業として継続してきている過程で、ある程度の融資額になっており、資金調達の方法、選択肢は限られてきている状況と言えます。
それぞれの金融機関からの融資残高を見て、折り返し融資など借換を行いながら資金確保していくのが一般的な対処法です。
また、この時期になると後継者への事業承継の問題など今後の企業としての大きな転換期とも言えます。親族内への事業承継か第三者へのM&Aか、企業の財務状況によって取れる選択肢は変わってきます。
衰退期の資金調達方法
金融機関からの融資(リスケジュールなども含めた金融支援)
銀行以外のノンバンクからの調達、自己資金など
この時期までくると企業としては売上減少、借入過多、会社や事業の売却など、企業としてはどのようにして終わりを迎えるかという時期とも言えます。
可能であれば、成熟期の間に次の一手を打ち、新たな経営者のもと、更なる成長を目指すか、第三者へのM&Aなどで企業の存続を選択するかなどの決定をしておくべきです。
この時期になると、金融機関も新たな融資が出しにくい状況になり、選択肢としては、自己資金の投下もしくは銀行以外のノンバンクからの調達など、金利負担の大きい借入に頼らざる負えなくなる場合もあります。
企業の各成長サイクルによる資金調達方法について述べてきましたが、実はM&Aも全ての企業の成長サイクルの中で資金調達の選択肢になり得るのです。
M&Aが中小企業へも浸透してきましたが、未だにM&A(厳密にいえば事業譲渡や子会社の売却、株式の一部売却など)による資金調達という考えをする経営者は少ないです。
ここでは株式や事業の売却についてお伝えします。
創業期のM&Aが行われる場合に多いのが、0→1(新規事業を立ち上げる)が得意な経営者(いわゆる起業家)が、事業を立ち上げ一定の目途が立った段階で売却する場合です。その売却益を次の事業の事業資金として利用します。
創業期でのM&Aの場合は、金融機関などの融資と違い、事業の将来性を評価してもらえるので、売上高を度外視した譲渡代金で譲渡できる場合があります。
すぐれた技術や企業として将来性があるのであれば、出資を受けたり、一部の株式を譲渡する方法で資金調達をしたりすることは十分に可能です。
成長期/成熟期でのM&Aに関してポイントは経営権です。
この時期は株式の一部を譲渡することによる資金調達を行う企業が多いです。資金を出す側が、資金提供する代わりに経営権が欲しい(51%以上の株式が欲しい)と主張してくることが多いです。
そういった場合に売手企業は経営権(企業の実質的な支配)を手放すのか手放さないのか、というのは大きな問題です。
経営権にこだわらない経営者は、自身での成長スピードの限界を感じ、企業の更なる発展のために、第三者の力を借りて成長しようと考えます。
そういった場合は、株式の譲渡や出資の受け入れなどを行い、潤沢な資金を企業拡大への投資に利用し、企業をさらなる成長へと導いていきます。一方、IPOなどを目指さない場合は、経営権に拘る経営者が多いです。
また、経営権にこだわる場合は、複数事業を行っているのであれば、事業譲渡による資金調達も有効な方法と言えるでしょう。
衰退期でのM&Aはいわゆる再生型のM&Aもしくは清算型のM&Aとなる場合があります。企業の成長サイクルにおいては、成熟期の段階でM&Aを行う、次の経営者へバトンタッチして、企業を再建するというのが通常の流れです。
衰退期かつ経営者が高齢化している場合、もしくは金融機関からの債務が過大な場合は、再生型のM&A、清算型のM&Aにならざるを得ません。
しかし、衰退期でのM&Aの全てが悲観的だと捉える必要もありません。この時期に事業の一部を事業譲渡し、見事に経営改善した事例などもあります。
衰退期でのM&Aによる資金調達のポイントは、事業が棄損しない前に、早めに第三者に相談をするということです。
衰退期の企業の特徴として、日に日に売上や資金が枯渇していく傾向にあります。
「1ヵ月早く相談を頂いていれば」
「もう少し早くご相談頂ければ」
というようなケースが数多くあります。
迷ったらまずは第三者へのご相談をお勧めします。
資金調達の方法をお伝えしてきましたが、希望する資金調達方法が使えない場合も出てきます。
そこで、資金調達を成功させるポイントをお伝えします。あたりまえのようなことではありますが、きちんとおさえて資金調達を成功させましょう。
まずは、資金調達の目的を明確にすることです。融資する側に、自社にはどのようなプランがあって、資金調達ができたらどのように実現していくのかをきちんと伝える必要があります。
そのため、「何のために、どのくらい使うのか」を明らかにした資料を作成します。具体的で現実的なプランを見せることは、印象を良くし資金調達に効果があると言えます。
資金調達のためには会社や経営者がどこまで信用できるかという点も大切になります。経営計画や今後の方向性を具体的に伝えることはもちろん、これまでの経営状況や経営者の姿勢も重要です。
資金調達のときだけ必死になるのではなく、日頃から会社経営に真摯に向き合っているかどうかも見られていると言えるでしょう。
企業の成長サイクルに合った資金調達の方法を紹介してきました。
<創業期>
金融機関からの創業融資、助成金、補助金、自己資金
<成長期>
金融機関からの融資(プロパー融資を含む)、助成金、補助金、投資家(VC)からの投資、事業会社からの出資や私募債の引き受けなど
<成熟期>
金融機関からの折り返し融資、プロパー融資
<衰退期>
金融機関からの融資(リスケジュールなども含めた金融支援)、銀行以外のノンバンクからの調達、自己資金など
さらに、特に中小企業においては、M&Aも有効な資金調達の一つであるという認識を持てば、経営に関する選択肢はより広がることでしょう。
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