運送業界の動向とM&A
物流とは
物流とは、商品を扱う企業が消費者へ届けるための一連の工程を言います。ここでいう工程とは、たんに商品を運ぶだけでなく、荷物の包装や保管といった配達に必要な項目が含まれます。
つまり、物流とは輸送のほかに保管・荷役・包装・流通加工を指し、これを物流の5大機能と呼びます。物流は倉庫業と運送業に分類できますが、トラック運送業界は、後者の形態のひとつです。
わが国の国内貨物運送料は、年間48億トン(平成29年度)で、トラックの輸送分担率は9割を超えています。
トラック運送業界とは
物流業界には約7万5千の事業者がありますが、8割以上がトラック運送事業者で、その7割以上が「一般貨物自動車運送事業」です。トラックによる運送業務は、貨物自動車運送事業法によって「一般貨物自動車運送事業」「特定貨物自動車運送事業」「軽貨物自動車運送事業」の3つに分類できます。
一般貨物自動車運送事業とは、トラックを有する事業者が、その車両を使用して荷主からの荷物を輸送する事業者です。原則として5台以上の車両を保有することが条件となっていますが、トラックや冷凍冷蔵車だけでなく、ミキサー車やダンプ、トレーラーなども含まれます。
トラック運送事業の市場規模は約16兆円
トラック・航空・倉庫・鉄道など、日本の物流事業全体の市場規模は約26兆円。このうちトラック運送事業の市場規模は15兆8,986億円(平成28年度)で、物流市場全体の約6割を占めています。
日本は国土が狭く土地単価も高いため、在庫を大量に抱えるよりも、小口配送したほうがコストは安くなります。それが、日本でトラック輸送が多い理由と考えられます。
トラック事業者の99%は中小企業
トラック運送業62,276事業者のうち76%が一般貨物自動車運送事業であり、そのうちの99%が従業員300人以下の中小企業です。
トラック業界は、バスやタクシーなどと一緒に道路運送法によって長らく規制を受けてきましたが、1990年に物流二法(「貨物自動車運送事業法」と「貨物利用運送事業法」)が施行されたことにより大幅な規制緩和が行われました。
そして、新規参入が容易になり多くの企業が市場に参加。その結果、トラック運送事業者の事業規模は、全体の約70%が車両台数20台以下の小規模事業者となったのです。
トラック運送業界の課題
深刻なドライバー不足
運送業界では、トラックドライバー不足が課題です。日本では少子高齢化が急速に進展しているので、労働力人口が減少していることが原因です。とくにトラックドライバーは、賃金の低さと労働環境の悪さから、業界の求人倍率は2.5倍以上です(全職業の有効求人倍率は1.5~1.6倍)。有効求人倍率が高いほど、人手が不足していることを表します。
労働環境とドライバーの高齢化の問題
運送業界は、働く人が減っているのに仕事量は増加しています。ですから、仕事をこなすだけの人手が足りず、大きな問題となっているのです。労働時間についても、平成30年の全産業の平均年間労働時間が2,124時間であるのに対し、トラックドライバーの労働時間は2,580時間に達します。
運送業界のトラックドライバーにとって、健康な体と体力は重要です。担当するエリアによっては長距離の運転が必要だったり、1日の労働時間が不規則であったりするからです。
さらに、一般の人が運転しないような車両を運転する場合もあるので、特殊な技術や経験が必要になります。そのため、トラックドライバーは中高年に大きく依存しています。40歳未満のドライバーが25%程度であるのに対し、50代が24.9%、60代以上が16.6%と高齢化が進んでいるのです。
他の業界との賃金格差
ただ、全産業の平均賃金が497万円なのに対し、大型トラックのドライバーの賃金は457万円、中小型トラックのドライバーの賃金は417万円となっています。
経験が豊富であっても高齢であると体力的に業務につくことが難しい場合もあります。その結果、ベテランの活躍が見込めず、きつい仕事というイメージから若手の獲得も難しくなり、人材不足を引き起こしているのです。
また、インターネットを利用したネットショップの普及により、宅配サービスの仕事量は急増しています。現状でも宅配便の取り扱い数に対応できるだけのトラックドライバーを確保できていない会社がほとんどですが、今後も市場拡大が見込まれているので、トラックドライバーの負担が増すことは確実視されています。
トラック運送業界の課題克服
に向けての取り組み
労働時間の見直し
トラックドライバーは、労働時間が長い仕事です。体力的にも精神的にも大きな負担となる長時間労働は、長期的に働きたい人にとって障害になります。そこで、過酷な長時間労働になりやすいドライバーの労働時間に対し、国も法律で拘束時間に上限を定めています。
原則、1日につき13時間を基準とし、延長しても16時間までとしているのです。さらに、1日に15時間を超えて働けるのは週に2日まで。連続運転は最大4時間、休息を1日に8時間以上取ることなども決められているのです。
また、宅配の再配達や時間指定配達などが業務効率を悪化させています。そこで、大手企業を中心に実験的な取り組みが始まっています。たとえば、駅などに宅配ロッカーを設置することや、最寄りのコンビニなどで荷物を受け取れるサービスなどです。内閣府の調査では、宅配ロッカーの利用に否定的な意見が50%を超えているので、これらの取り組みが受け入れられるか分かりません。しかし、宅配便の2割が再配達になっていることに関しては70%以上の人が問題だと考えており、今後受け入れられる可能性は十分あるでしょう。
新しい技術の応用
ドライバー不足の問題を解決する方法として、ドローン配送と自動運転技術の応用に期待が高まっています。ドローン配送とは、ドローンの機体に専用のボックスを装着するなどして空路で輸送することです。ドローンを物流に活用するには、荷物を運んでおろすという複雑なプロセスを安全に行う必要があります。
また、現在のドローンの機体では飛行することが可能な総重量は限られており、機器搭載による機体重量増加を抑えつつも、安価に対応することが求められているのです。
これが消費者による正規価格への不信感を招き、正規販売比率のさらなる低下と消費意欲の減退につながっているのです。
また、自動運転技術も期待されています。官邸が発行した「ロードマップ2018」では、高速道路におけるトラックの陳列走行や完全自動運転トラックの実現、一般道においては限定地域での無人自動運転サービスを活用した配送サービスを実現する、といった内容が明記されています。
ビジネス化に向けての実験では、宅配便事業の集荷・発送業務や、地域路線バスとの連携による地元農産品の集荷・配送などが考えられています。安心・安全に稼働させるためには実証実験を重ねなければいけませんが、「無人配送」が今後は本格的に導入されていくでしょう。
M&Aによる業界再編
トラックドライバーは過酷な条件での低賃金労働を余儀なくされていますが、事業者の財務内容も悪化しています。そこで、大手事業者を中心にM&Aが増加しています。とくにリーマンショック以降に顕著になっていて、大企業同で物流分門を統合して効率化を図り、海外の企業を新規顧客開拓のために買収する案件が多くなっているのです。近年のM&Aの事例をいくつか紹介します。
日本通運がイタリア・ロジスティックサービスのTraconf S. r. l. を買収(2018年3月)
2018年3月に、日本通運がイタリア・ロジスティクスサービスの「Traconf S. r. l.」を144.5百万ユーロ(約190億円)で買収しました。日本通運は、日本における物流最大手企業で、売上高は2兆800億円(2020年3月期予定)です。陸・海・空の総合物流は世界的で、国際複合輸送でも実績があります。また、引っ越しでも国内最大手です。
2019年から2023年までの経営計画では、産業・事業・エリアの3つの軸をコア事業の成長戦略としました。そして、国内事業の強靱化と海外事業のM&Aにより、2037年には海外売上高比率を50%に拡大する方針です。
「Traconf S. r. l.」はイタリア・ヴェローナに本拠地を置き、高級ファッションブランドを主要顧客としています。イタリアなどの欧州だけでなく、米国・中国でも展開。このM&Aによって両社が有する顧客へのアクセスが可能になり、国際間輸送から製品管理、市場への配送までワンストップ型のロジスティクサービスの提供を目指しているのです。
株式会社ファイズが中部の運送会社・ドラゴン・ホールディングスを子会社化 (2019年7月)
株式会社ファイズは、EC向け庫内作業代行のほか拠点間輸送や宅配をしていて、アマゾンが最大の顧客です。ファイズは、愛知に拠点を構える運送会社である「株式会社ドラゴン・ホールディングスの株式を2019年7月に取得し、子会社化しました。
株式会社ドラゴン・ホールディングスは、中部地区を中心に中・大型車両を用いた商品の輸送を行っています。株式会社ファイズのロジスティクスサービス事業との連携強化を図ることが目的です。
運送業界は商習慣の定着により新規顧客を得るのが難しい特性があるので、大手事業者を中心に、規模の拡大を図ることができるM&Aは今後も増えることが予想されます。
まとめ
トラック業界の現状を教えてください
物流業界には約7万5千の事業者がありますが、その8割以上がトラック運送事業者です。トラック運送事業の市場規模は約16兆円で、物流全体の6割を占めています。トラック運送事業者の大部分が従業員300人以下の中小企業で、全体の約70%が車両台数20台以下です。
トラック運送業界の課題は何ですか
深刻なドライバー不足です。少子高齢化が進んでいるので労働力が不足している上、長時間労働・低賃金で若手の獲得も難しくなっているのです。インターネットショッピングの普及により、宅配サービスの仕事量も急増しています。ですから、トラックドライバーの負担が増すことは確実視されています。
課題克服に向けての動きについて教えてください
長時間労働を制限する法律が定められています。また、再配達や時間指定配達などが業務効率を悪化させているので、宅配ロッカーやコンビニで荷物を受け取れるサービスなど、新しい取り組みを行っています。 また、ドローン配送や自動運転など新しい技術の応用も期待されています。
トラック運送業界のM&Aの状況はどうですか
事業者の財務内容悪化や、大手事業者の新規顧客開拓などでM&Aの件数は増えています。とくにリーマンショック後に顕著で、近年は海外企業の買収案件も増えています。
運送業界は商習慣の定着により新規顧客を得るのが難しい特性があるので、大手事業者を中心に、規模の拡大を図ることができるM&Aは今後も増えることが予想されます。