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M&A

事業譲渡のメリット・デメリットとは?

2019/12/06



M&Aにはいくつかの取引形態がありますが、中でも「株式譲渡」と「事業譲渡」は特に利用されている取引形態です。


「事業譲渡できると思っていたのに、取引先が引継げなかった」「賃貸借契約の変更ができなかった」などで事業譲渡の話が頓挫してしまい、企業として大きな損失につながってしまうケースもあります。


そこで今回は、株式譲渡と比べて事前に確認しておかなくてはいけないポイントが多い、事業譲渡のメリット・デメリットについてお伝えしていきます。


事業譲渡を検討している方はぜひ今回ご紹介する内容をご参考ください。


事業譲渡とは



事業譲渡は売却スキームの1つで、第三者に対して自社の事業を売却します。

譲渡の対象となるのは、事業に関する全ての財産です。

例えば、事業で開発された商品やノウハウ、有形・無形財産、資産や人材、取引先なども全て含まれます。


事業譲渡の場合は数ある事業の中の1つを売却することもできますし、全部の事業を売却することも可能です。

事業譲渡のメリット



買い手側にとって事業譲渡を行う最大のメリットは、債務を引き継がなくてもよい点です。


事業だけを譲渡することになるので、その事業に関連する一切の債務は引き継ぐ必要もありません。


売り手側のメリットは事業売却後に繰越欠損金などがあれば、譲渡対価にかかってくる法人税の圧縮につながる点です。


事業譲渡の代金はりえきとして計上されます。よって売却後の税金についても事前に考慮しておいた方がいいでしょう。


その他にも事業再生フェーズの企業は事業譲渡で得た利益を債務の圧縮に活用したり、資金繰りに活用するなど、再生手法の1つとしても利用できます。


事業譲渡のデメリット



事業譲渡が持つデメリットは、引継ぎに手間が掛かってしまうという点です。


事業譲渡の場合、買い手企業には取引先との契約や従業員の雇用契約、賃貸借契約の契約、許認可など、株式譲渡と比較しても手続きの量が多く、引継業務が煩雑になっていきます。


規模が小さければそこまで手間が掛かるわけではないのですが、売り手企業側が従業員50人以上で複数の取引先がある場合、買い手企業には大きな負担となるでしょう。


他にも、契約の切り替え作業を行っている最中に契約が継続できなくなってしまう取引先や、退職したいと考える従業員が出てくるなど、事業譲渡をしたからと言って全ての従業員や取引先を引き継げるわけではないのです。


一方、株式譲渡だと株主を変更するだけなので、契約の再締結などを行う必要もなく、スムーズに譲渡手続きが行えます。


簿外債務のリスクはあるものの、デューデリジェンスをしっかりと行っておけばリスクの回避はできます。



事業譲渡が有効なケース


事業譲渡を選択するポイント



株式譲渡よりも事業譲渡を選択するポイントは、会社をそのまま存続させ、主力事業に特化していきたい場合に向いています。


例えば業務の幅を広げていった結果、不採算事業が増えて資金繰りも難しい状況になってしまった企業があったとします。


そんな時でも不採算の事業を譲渡することによってキャッシュを増やせば、資金繰りの改善もできます


また、事業譲渡を選択すると、事業売却後に法人はそのまま残ります。

売却した代金で新規事業をはじめることもできる点はメリットと言えます。


具体的に事業譲渡が有効な企業状況



事業譲渡が有効になる企業の状況として、例えば不採算事業が存在し、会社から切り離したいと考えている状況は、株式譲渡よりも事業譲渡の方がよいでしょう。


元々「事業を手放す」という考え自体が経営にとってあまり良くないように思えるかもしれません。


しかし、不採算である以上早めにどうにかしなければ損失が増え、赤字経営を招いてしまう可能性が高くなります。


さらに、事業譲渡は経営難などマイナスの場面だけで活用される手法ではありません。


譲渡益を使って主力事業に専念したり、新たに立ち上げる事業のために先行投資したりすることもできます。


このように、事業譲渡が有効な企業状況とは、その全てが会社にとってマイナスな状況ではないのです。


>>会社売却のタイミングはいつがベスト?


事業譲渡の注意点とは


1.事業譲渡を行う準備



まずは自社の分析を行い、本当に事業譲渡が必要なのか調査していきます。

もしこのままの状態だと経営難に陥ると予測できる場合は事業譲渡の計画を立案していきましょう。


また、許認可の引継ぎや取引先との契約内容、賃貸借契約の内容確認など事前にどういった引継ぎが可能かどうかは契約書を含めて確認しておく必要があります。


2.取締役会から承認を受ける



取締役会を持つ会社は、取締役会で事業譲渡に関する説明と決議を行う必要があります。


取締役会で承認を得られたら、いよいよ本格的に事業譲渡に移っていきます。


3.買い手企業の選定と交渉



事業を買い取ってくれる企業を探していきます。


買い手企業を探す方法はいくつかありますが、M&Aのコンサルティング会社や専門家に依頼すると好条件の企業とマッチングできる可能性が高まります。


また、基本的な交渉まで任せられるので、事業譲渡を成功させたいという方は、M&Aのスペシャリストに相談しましょう。


4.基本合意契約書の締結

基本合意契約書は最終的な契約ではなく、あくまでも流れの半ばにおける契約です。

ここで基本的な事業譲渡の内容を取り決めます。


5.買い手企業による企業調査



買い手側は事業譲渡によって不利益を被らないよう、入念な企業調査(デューデリジェンス)を実施します。


6.事業譲渡契約の締結



企業調査が完了し、特に問題がないと判断されれば事業譲渡契約の締結に入ります。


基本的な内容は既に取り決めているので、ここで最終的な調整と合意を行わなくてはなりません。


7.株主総会での特別決議



事業譲渡契約が締結したら、株主総会での特別決議を実施します。

株主に対して事業譲渡を行う旨を公告・通知し、総会で承認を得ます。


株主総会で承認が得て、契約書に明記されている効力発生日が来たら事業譲渡契約が完了となります。


8.クロージング条件の履行



事業譲渡契約書に記載されたクロージング条項を売手企業は履行する場合があります。


クロージング条件とは決済を行う上で、クリアしておかなければならない作業です。


事業譲渡の場合は、従業員の引継ぎ、賃貸借契約の引継ぎ、許認可の引継ぎなど、事業を継続するためには必須とされる事項を決済前に処理しておく必要があります。

このクロージングの条件をクリアして、はじめて事業譲渡の代金が買手企業から売手企業へ支払われます。


9.決済の実行



ここまでの作業を行って、やっと譲渡代金の支払いが発生します。

決済時には、必要な物品の引渡しなどが売手企業から買手企業へ渡されます。


この一連の流れで、約3ヶ月程度は期間を要すると認識しておいてください。


事業譲渡の注意点



事業譲渡の契約までの流れをご紹介してきましたが、その中で注意すべきなのは「従業員の今後の処遇」です。


事業譲渡になった場合、契約内容によっても異なりますが、基本的には人材も買い手側へ移籍することになります。


移籍となると従業員は一旦会社を退職し、再雇用という形になるため一人ひとりから同意を得なくてはなりません。


場合によっては事業譲渡に不満を持ち、優秀な従業員まで辞めてしまう可能性があります。


こうなると買い手側も不利益になってしまうので事業譲渡そのものがなくなってしまう可能性もあるのです。


事業譲渡を成功させるためには、退職・雇用条件をしっかりと話し合こと、事業譲渡に関して早めに従業員へ開示し説明をすることが重要です。


特に従業員は給料だけでなく、賞与や有給休暇、退職金などに不安を感じる傾向があるため、その不安を解消できる条件の提示を行うと良いでしょう。


>>会社や事業の売却では、どのタイミングで社員や取引先に報告するべきか?


事業譲渡に関わる税金とは



もう一つ、事業譲渡を行う上で注意すべきなのは税金です。

事業譲渡に関わる税金は、主に譲渡益に対して発生する法人税、買い手側は事業を引き継いだ時に発生する消費税が課せられます。


法人税は税引前の利益に対して約35%かかるものだと認識しておきましょう。


また、買い手側には事業譲渡と共に不動産を取得した場合は「不動産取得税」、不動産の登記を書き換えるために必要な「登録免許税」も納める必要があります。


のれん代の処理方法



事業譲渡を行う場合、「のれん代」が発生します。


のれん代は貸借対照表において、買収した時に発生する価額と、売り手企業の時価純資産価額の差額を表すものです。


事業譲渡だとブランドや売り手企業が社会的に信用されている部分、知名度、優秀な人材など、無形固定資産も買収価額に反映されるため、のれん代が発生するのです。


こののれん代を処理するには、会計上と税務上で方法が異なります。


・会計上での処理方法



まず会計上でのれん代を処理する場合、損益計算書の中では「販売費および一般管理費」に区分され、資産として計上されます。


この時、のれんの効果が及ぶ期間(見積耐用年数)を出して、最大20年以内に減価償却を毎年計上する定額法を使って処理されるのです。


ただし、負ののれんだった場合は事業年度の特別利益としてまとめて計上されます。


通常ののれんと異なるのは、最大20年以内に償却すればいいのか、それともまとめて処理しなくてはいけないのかという違いです。


・税務上での処理方法



税務上では資産調整勘定で調整し、負ののれんだと差額負債調整勘定で処理することができます。


気を付けなくてはならないのが、のれんを計上した額と資産調整勘定を計上した額が同じであっても、のれん償却と資産調整勘定償却額が同じであるとは限りません。


なぜなら、のれんの償却期間は最大20年以内となっていますが、資産調整勘定になると5年間は定額償却が適用されるためです。


事業譲渡では株式譲渡とは違い、のれん代を損金算入することが可能です。

もし損金算入ができると節税効果が高まります。


>>のれん代の償却とは? 会計基準の違いから計算事例まで解説します。


M&Aの他の譲渡方法との比較



事業譲渡と他の譲渡方法を比較し、自社にとって最適な譲渡方法を見つけることが、M&Aで成功するためには重要です。


営業譲渡と事業譲渡の違い



営業譲渡は元々旧会社法で使われていた言葉で、新会社法が制定されてから「事業譲渡」と呼ばれるようになりました。


そのため営業譲渡と事業譲渡はほとんど同じ意味合いとなります。


しかし、現在でも商法が適用されるシーンでは営業譲渡という名称が使われることもあります。


法律的にも会社法が適用されるシーンでは事業譲渡、商法が適用されるシーンでは営業譲渡と使い分けているので、きちんと区別するようにしましょう。


株式譲渡と事業譲渡の違い



会社をそのまま譲渡する「株式譲渡」と一部の事業だけを譲渡する「事業譲渡」には様々な違いが見つかります。


中でも株式譲渡か事業譲渡かを選ぶ時に影響をもたらす違いをご紹介しましょう。


買い手企業の見つけやすさ



譲渡したい場合、買収してくれる買い手企業が必要です。

株式譲渡と事業譲渡なら、事業譲渡の方が買い手企業を見つけやすくなります


なぜなら、事業譲渡の方が買い手企業にとって責任の重さが違ってくるためです。


事業譲渡だと売り手側と事業が切り離されるため、過去の責任や負債について買い手側が問われてしまうこともありません。


・借入金の取扱い



事業譲渡の場合、事業だけを売却するため会社が抱える負債やリスクなどはそのまま手元に残ります。


事業が高く売却でき、その譲渡益をもって借入金を一括返済することも可能ですが、借入金の返済を行いながら譲渡益の一部を新しい事業に投資することができるのです。


株式譲渡の場合、会社が譲渡されるため負債やリスクも買い手企業に全部引き継がれます。


そのため買い手企業はできるだけ損失を少なくするために企業調査を実施し、簿外債務がないかをチェックしていきます。


注意する点は、事業譲渡の代金で借入金の全てが返済できないケースです。


事業を全部売却してしまい、借入金の一部が残ってしまっては、残った会社は清算するしか道はありません。


そういった意味においても、事業譲渡の対価の設定や借入金とのバランスなど、事前に売却後の計画を考えた上で、譲渡を進めていく必要があります


・個人(経営者)にお金が入るか入らないか



株式譲渡だと株主から株式を買い取っていきます。

そのため、株主の手元には株式の代わりに現金が残り、この利益を使ってハッピーリタイアを叶えることも可能です。


一方、事業譲渡の場合は売り手企業が事業の一部を売却しているので、譲渡益は経営者個人ではなく会社に入ります。


もちろん、残った会社から報酬や退職金で個人としてお金を得ることは可能です。


しかし、税金のことを考慮すれば、株式譲渡の方がメリットがあると言えます。


>>株式譲渡と事業譲渡での借入金の取扱いの違いとは


まとめ



・事業譲渡のメリット



譲受会社側は簿外債務まで引き継がなくても良い点が、事業譲渡最大のメリットと言えます。


事業に関連しない債務は一切引き継がれません。

・事業譲渡のデメリット



事業譲渡のデメリットは株式譲渡よりも引継ぎに関する手続きが多く、非常に煩雑になってしまう点が挙げられます。


事業譲渡を行う際には、会社の規模・財務状況をきちんと把握しつつ、引継ぎにどれほど時間と手間がかかるのかも考慮しながら事業譲渡にするか考えてみましょう。


最後にワンポイント




事業譲渡は取締役会がある会社だと必ず決議をする必要があります。


また、株主総会が必要となるケースもあるので、詳細についてはM&Aのアドバイザーから適切な指示を受けて対応するようにしましょう。


また、事業譲渡だとその事業に関連する契約は全て再締結しなくてはなりません。


もしも事業譲渡を選択するのであれば、なるべく再契約ができるかどうかを事前に確認しておきましょう。



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