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株式譲渡と事業譲渡での借入金の取扱いの違いとは?
株式譲渡の場合は負債(借入金など)も買手企業に引継がれます。
事業譲渡の場合は負債(借入金など)は買手企業に引継がれません。
また譲渡対価<借入金の場合は取扱いに十分注意しましょう。
目次
会社売却の際に気になる借入や連帯保証
会社売却をする際に経営者の方が最も気にしているのが、銀行から負債(借入金)や連帯保証人の問題かもしれません。
現に事業承継をする際に、息子(親族)へ引き継がない理由多くが借入金の引継ぎによるものです。
ご自身が事業を行っていく上で、資金繰りの問題や、借入の問題で苦労された経営者ほど同じ想いをさせたくないと考え、息子や親族への事業承継をせずに、第三者へのM&Aを選択する場合が非常に多いです。
優良な企業の場合は親族内での承継を行いますが、中小企業の80%が赤字と言われている中で、多くの企業が借入金や連帯保証債務の問題で親族内で事業承継は行わずに第三者へのM&Aを決断しているのが現状です。
株式譲渡と事業譲渡での負債(借入金など)取扱いの違い
会社や事業の売却の場合の借入や連帯保証はどのように取扱いをされているか見ていきましょう。
株式譲渡と事業譲渡でケースは異なりますので、個別に見ていきます。
株式譲渡の場合
株式譲渡の場合は、基本的に買手企業が借入金も含めて会社の債権債務の一切を引継ぎます。
処理の仕方としては、
・株式譲渡後に買手企業が借入金を一括で返済する
・買手企業が借入金の借換を行い返済する
期間としては、株式譲渡の契約書内で定めていて平均3カ月以内での借入金の切替が一般的です。
その期間内に経営者個人の連帯保証債務を解除することを決めています。
事業譲渡の場合
事業譲渡の場合は、会社ではなく、会社の一部の事業を譲渡するので、借入金や連帯保証債務の返済義務は買手企業にはありません。
一般的に事業を譲渡する場合(今回は会社の全ての事業を譲渡する場合)は譲渡代金にて借入金を返済します。
事業を売却した後に、別事業をその会社で行うのかなどを加味して、一括で借入金を返済するのか、一部新規事業への投資として譲渡代金を利用するため、一部返済するなど、選択肢は譲渡した経営者にあります。
事業譲渡の場合は、譲渡代金を返済するか投資するかは、経営者の判断に任せられます。
実際は返済して連帯保証債務を外すことを選択する経営者が多いです。
譲渡価格<負債(借入額等)の方が多い場合は?
上記で記載した内容は、
譲渡価格>借入額の場合の企業です。
譲渡価格で借入金を全て賄える(返済相当額である)企業のケースです。
では、譲渡価格<借入額の場合はどういった処理が行われるのでしょうか?
この様な財務状況の場合、買手企業は株式ではなく事業を検討する場合が多いです。
中には、株式を1円で譲渡してもらい、借入金を引継ぐことで会社の譲渡をしてしまう場合もありますが、一般的には事業譲渡を選択します。
事業譲渡の対価で、借入金を全額返済できない場合に関しては、
・私的整理
・特別清算
・経営者個人が破産せずに債務を処理する
・破産する(法的手続きを行う)
場合などケースバイケースです。
銀行などの債権者との調整が非常に重要になります。
安易に全ての経営者個人が破産をしなくていいとは言い切れません。
その様なリスクはありますが、回避する方法はあります。
ただそのためには経営者の覚悟と時間が必要です。
その上で、経験豊富なアドバイザーに依頼しましょう。
実際にこういった処理の経験があるアドバイザーとないアドバイザーでは譲渡した後の結果が全く違うものになりますので、必ず経験のあるアドバイザーに依頼することをお勧めします。
経営改善を行って会社を売却するという選択肢
譲渡価格<借入金という財務状況の場合、経営改善を行って会社を売却するという方法があります。
譲渡価格とは企業価値を意味します。
企業価値は貸借対照表の実質純資産と営業利益の〇年分を足し合わせた金額です。
(あくまでも一般的な評価方法です。実際は事業内容などを加味でした価格になります。)
つまり、経営改善を行うと、借入金を圧縮する(収益の増加による返済)や営業利益を増加させることによって譲渡価格は高くなります。
特に有効なのは、無駄な経費面の見直し、財務リストラ、原価の見直しなど収益の改善が効果的です。
今現在では譲渡価格<借入金かもしれませんが、1年後はそれが逆転する可能性も十分にあります。
そういった選択肢も考慮しながら会社や事業の売却を検討してみることをお勧めします。
まとめ
会社や事業の売却を行う場合は、譲渡価格と借入金のバランスに注意しましょう。
一般的に譲渡価格>借入金の場合は、譲渡価格で借入金の返済ができるので問題はありません。
株式譲渡の場合は、一定期間内に連帯保証債務の解除も条件に入っているので特段問題はありません。
譲渡価格<借入金の場合は、譲渡価格での借入の全額返済ができませんので、取扱いには十分に注意しましょう。
依頼するアドバイザーもそういった案件処理実績が多い方に依頼することをお勧めします。
経験のあり、なしで結果が大きく異なることもありますので、慎重に依頼先は決めましょう。
また、現時点で譲渡価格<借入金の場合でも経営を改善して譲渡価格>借入金という取引にできる可能性も十分にあります。
現状で判断せず、将来的な選択肢も含めて可能性を模索することをお勧めします。