M&A
2019/11/03
会社や事業を売却する場合、事業譲渡であれば「事業譲渡契約書」、株式譲渡であれば「株式譲渡契約書」の作成が必要となります。
それぞれ作成するにあたっていくつか注意点が存在するのですが、売り手様と買い手様の状況に応じて契約内容から注意点まで変わってしまいます。
具体的にどのような点に注意すれば良いのでしょうか?
今回は契約書を作成する際の注意点から、どのような内容が契約書に記載されているのかをご紹介いたします。
また、リスクを最低限に抑えながらM&Aを成功させるポイントもご紹介しているので、併せてお読み頂ければ幸いです。
目次
契約書をご紹介する前に、会社の売却方法について改めて簡単にご説明します。
株式譲渡とは、売り手企業のオーナー(株主)が買い手企業もしくは個人へ保有株式を譲渡する方法です。
過半数の株式を譲渡すれば、経営権は買い手側に移ることになります。
株式譲渡の特徴は、契約書を締結し株式の対価が支払われれば、株主名簿を書き換えるだけで手続きが完了してしまうという点です。
手続きに手間がかからないため、中小企業のM&Aでもよく利用されています。
事業譲渡とは、会社の事業(有形・無形財産や債務、人材、事業組織、ブランド、ノウハウ、取引先などを含む)を第三者へ売却する方法です。
株式譲渡は会社ごと売却する形になりますが、事業譲渡はあくまでも一事業だけを売却するため会社を存続させ、オーナー自身が経営を続けることもできます。
もし事業譲渡の方法を選択してで売却した場合、書面には「契約条項」を記す形となります。
この契約条項にはあらかじめどんな項目があるのか知っておきましょう。
事業譲渡の際に作成されるのは「事業譲渡契約書」であり、内容量が多く記載しきれなくなると付随する形で別途書類が作成されます。
事業譲渡契約書が必要なのは、譲渡後のトラブルを回避するためと会社法21条の認知・了承を得るための2点が理由として挙げられます。
まず、事業譲渡を契約する際には特に問題がなくても、譲渡後に未払い債務への支払い請求やWebサイトの権利はどちらにあるのか、損害賠償請求の発生などのトラブルが発生する恐れもあるため、あらかじめトラブルが発生した場合の対処法を事業譲渡契約書に記していきます。
もう一つは、会社法21条には「競業避止義務」が定められています。
競業避止義務は、事業を売却した会社が同じエリアもしくは近隣のエリアで20年間は同じ事業を行ってはいけないというものです。
あくまでも原則的な規定であり、買い手側が同意すると地域や期間を変更して再度事業を手掛けられますが、基本的には買い手側にとって不利益でしかありません。
後々問題を発生させないためにも、事業譲渡契約書で会社法21条の認知・了承を得なくてはならないのです。
事業を譲渡するにあたり、どの事業を売却するのか特定させる必要があります。
きちんと対象となる事業を決定させる上でも、契約書の中で重要な項目の1つと言えます。
事業を売却した際にもらえる対価がいくらになるのか、そして買い手側がいつまでの支払うのかを示した項目です。
契約書には対価と期日以外にも振込先口座なども記載されます。
また、振込手数料は買い手と売り手のどちらが負担するのか事前に決めておかないとトラブルにつながる恐れもあるので注意してください。
一般的に買い手側が負担することが多いですが、念のため事業譲渡契約書にも明確に記載しておきましょう。
事業譲渡の場合、買い手側が全ての財産(資産)を承継せず、対象となる財産を選定していきます。
例えば事業を進めていく上で必要な不動産や機械類などは対象資産に含まれるでしょう。
財産と同様に、債務に関しても契約書で明確に特定しておく必要があります。
買い手側が承継する債務には、未払金や買掛金などの流動負債、退職給付引当金や補償金債務などの固定負債が該当します。
事業譲渡の場合、従業員の再雇用に関する取り決めも記載しておく必要があります。
もし従業員を承継する場合は、雇用契約を再度結ばなくてはなりません。
また、売り手側も再雇用に関する承認を従業員から得る必要があるため、これらの旨をすべて契約書に明記しておきましょう。
事業契約に必要なそのほかの契約書に関する切り替え時期も、事業譲渡契約書に記載しておきます。
契約書の交付は基本的に譲渡日に設定されます。
例えば免責登記や取締役会・株主総会で記録された議事録、売り手側の商業登記簿謄本、財産移転に関する書類などです。
契約を結ぶ際に、事業譲渡するための条件を記載しておきます。
クロージングの条件は売り手と買い手で異なり、売り手側であれば相手の表明保証が事実という点、書面に記載されている義務を買い手が果たしている点などが挙げられます。
買い手側は契約時に取り決めをした取引先や従業員の引継ぎが問題なく完了したかなどが決済条件として記載されます。
事業譲渡契約書を作成するにあたり、いくつか注意点も存在します。
協業避止条項は当然であるとしても、必ず契約書に記載しておくことが大切です。
特にWebサイトは「不正の競争の目的」に当てはまると判断され、損害賠償が認められた事例も存在します。
ただし、場合によっては抵触に該当しない場合も考えられるため、あらかじめ契約書に明記しましょう。
万が一表明保証を違反した場合、損害賠償請求されてしまう可能性がありますが、この時の限度額は譲渡代金から公租公課などを考慮した上で決めていきます。
しかし、明確な決まりがなく、会社によっては譲渡代金の約8割を上限にしているところもあれば、2~3割程度までの上限としている場合もあります。
損害賠償請求は故意でない場合でも発生してしまう可能性はあるので、必ず確認しておきましょう。
手続きを進めていても、さまざまな理由から契約が解除される場合もあります。
解除となる条項は事前に取り決めておくと良いでしょう。
例えば、表明保証の内容に違反が見つかった場合や、倒産手続きが開始された場合などが挙げられます。
従業員は無条件で移転することができないため、新たに買い手側と従業員が雇用契約を結ぶことになります。
この時の雇用条件は事前に確認しておくことが大切です。
例えば給与・福利厚生・勤務環境などは大きく変化する可能性が高いので注意しましょう。
事業譲渡は手続きが煩雑になりやすいため、クロージングが遅れてしまう場合もあります。
しかし、長引かせないためにも最終的な譲渡時期は事前に双方で取り決めておきましょう。
契約締結からクロージングまで一通りの流れをチェックしておくと、いつまでに・どの契約手続きを済ませなくてはならないのかが把握できます。
事業譲渡契約書を作成する際の注意点や重要な項目をご紹介してきましたが、ここで具体的な対応事例をご紹介していきましょう。
事業譲渡でよく著作物に関してどう対応すればいいのか分からなくなるケースがあります。
著作権は商標権と一緒に買い手へ移すことができますが、著作物に付随される「著作者人格権」に関しては譲渡できません。
そのため、著作者人格権を持っている人が権利を主張すると、著作物を承継したのに扱えなくなってしまうのです。
譲渡するものに著作物が含まれている場合は、あらかじめ著作者人格権を行使しない旨を契約書に明記しておくことが重要です。
債権の記載については「債権目録」を作成し、契約書に添付しておきます。
債権の中には単に未収債権で譲渡後には必ずなくなるのであれば、大きな問題にはなりません。
それでも確実に未収債権にはならないという根拠を示す必要があるでしょう。
問題になってくるのは、債権を含めて事業譲渡する場合に事業譲渡契約書の記載以外にも行うべきことが増えるということです。
これは、債権者に債権譲渡を通知して債権譲渡の旨を債務者が理解し、承認したことを示した手続きも行わなくてはいけないのです。
基本的に事業譲渡では売り手側の債務をすべて引き継ぐことはありません。
ただし、事業に付随する資産の債務は承継せざるを得ない場合があります。
例えば事業に必要な機器をリース契約している場合、譲渡後は買い手側がリース債権を支払っていかなくてはならないケースもあるのです。
この場合、事前に契約を切り替えられるか確認しておきましょう。
もし引継ぎが難しいのであれば、まとめて返済するなどの譲渡代金以外で費用が発生する可能性もあるので気を付けてください。
株式譲渡で会社を売却する場合は「株式譲渡契約書」が必要となり、事業譲渡契約書の内容と異なる部分が出てきます。
株式を売却する形となるため、独占禁止法・外為法・インサイダー取引規制などを盛り込む金融商品取引法の規制に基づき、契約書の規定や条件を盛り込んでいく必要があります。
株式の取引を公正に行うために必要な規制となり、売り手と買い手の双方で十分理解した上で契約書に重要項目を明記していきましょう。
また、会社売却する方法として90%以上が株式譲渡と事業譲渡を占めているものの、譲渡契約の取り交わしについて書面を作成する場合、内容がかなり変わってくることへの理解も必要となります。
株式譲渡契約書を作成する前に、2つ確認しておきたい事項があります。
実際に株券を発行している会社を「株券発行会社」と言います。
株式譲渡契約をする際には、株式を購入することになるため株券発行会社であることが大前提です。
株券を発行していなかった場合、契約を交わしたとしても譲渡は無効になります。
中小企業の場合、経営権をコントロールするためにも株式譲渡制限を設けている場合があります。
株式譲渡制限を設けていると譲渡するのに株主総会や取締役会で承認を得なくてはいけなくなるので注意が必要です。
表明保証は売り手と買い手の双方でリスクを避けるために、責任がどこにあるのかを示したものです。
売り手は予測が困難な債務リスクが出てきてしまう可能性もあるため、保証の線引きはしっかりと決めておいた方が良いでしょう。
また、買い手側はデューデリジェンスの結果や資料に間違いがないかを定めるものなので、調査と検証を十分に行った結果として表明保証を行うようにしてください。
契約を解除するための条項は株式譲渡契約書にも必要です。
明確にどんな条項で契約解除となるのか明記しておきましょう。
クロージングするまでに前提条件を満たしている必要があります。
主に前提条件として挙げられるのは、以下の項目です。
①表明保証の事項が正しいかどうか、
②クロージングまでに誓約事項が履行されているか
③取引先から取引継続の同意を得ているか
④独占禁止法の届け出などが提出されているか
⑤業務上の許認可取得はされているか
⑥会社の重要な役員やキーマンとなる従業員から同意を得ているか
損害賠償については、義務や表明保証の違反など、損害賠償請求を行える範囲を決めていきます。
万が一損害賠償請求をされてしまった場合でも、あらかじめ賠償額の上限や請求可能な期間を設定することも可能です。
また、表明保証違反に陥りやすい売り手会社のために「表明保証保険」も存在します。
表明保証違反などで損害賠償請求が発生した場合、売り手には保証義務があります。
売り手にとって損害賠償義務や保証義務の負担は非常に大きなものとなってしまうため、ほとんどの株式譲渡契約書には保証期間を設定しています。
保証期間は大体1~5年に設定されることが多い傾向です。
売り手と買い手の双方ですり合わせ、期間を設定しておきましょう。
事業譲渡と同様に契約締結からクロージングまでのスケジュールをあらかじめ決めておかないと、契約もスムーズに進まなくなってしまいます。
事業譲渡に比べて煩雑な手続きが少ない株式譲渡ではありますが、それでも全く手続きや準備がないわけではありません。
余裕を持ってスケジュールが調整できるよう、クロージング期間の取り決めも行っておきましょう。
株式譲渡契約書の作成時にトラブルが発生してしまう可能性は少なくとも存在します。
具体的な対応事例を参考に、トラブルの回避につなげましょう。
株式譲渡契約書は基本的に法律のプロでなくても、会社に関わる人物であれば作成することも可能です。
ただし、内容に不備が生じると後々不利になってしまう可能性もあります。
株式譲渡契約書の作成は素人だと困難であるという認識を持ち、無理をせずM&Aアドバイザーや弁護士などの専門家に相談しましょう。
負債の要因として挙げられる債務は、売り手側のオーナーが連帯保証人になっている場合に連帯保証人を外す必要があります。
一般的には株式譲渡契約書の中で連帯保証債務を外す条項を入れることになるでしょう。
ただし、赤字会社を株式譲渡する場合や負債額が大きい時は注意しなくてはなりません。
買い手側が全額キャッシュで返済できるくらいの与信があれば問題ないでしょう。
また、万が一クロージング後に連帯保証債務が外れない可能性もあるため、株式譲渡契約書に解除条項と損害買収請求について、債務の返済を要求された時の対応に至るまで明記しておくと安心です。
契約書内で取り決められなかった事項や記載項目の追加、修正が発生した場合、内容変更の手続きを行わなくてはなりません。
場合によっては一から契約書を作成し直さなくてはならない場合もありますが、特記事項や覚書で対処することが可能です。
勝手に覚書や特記事項を作成することはできないため、内容変更に関する合意を得てから作成していきます。
もしも覚書が課税文書となる場合は収入印紙が必要となってくるので注意しましょう。
株式譲渡・事業譲渡にはさまざまなリスクが存在しますが、回避するポイントはあります。
それぞれ契約書を作成する時やその前後で覚えておきたいポイントを3つご紹介しましょう。
先ほどもご紹介しましたが、契約書には不備があってはならないため弁護士からのチェックは必須と言えます。
最近はネットから契約書のひな形をダウンロードすることもできますが、契約内容は売り手・買い手双方の状況によっても大きく異なるため、法的に問題がないか確認しなくてはならないのです。
買い手側は契約書を作成する前に必ずデューデリジェンスを実施し、その結果も基にしながら契約書を作成していきましょう。
デューデリジェンスを十分に実施していないと、後から簿外債務が発覚しすべて買い手側の負担になってしまう恐れもあります。
無駄なコストが発生し得るリスクを回避するためにも、デューデリジェンスは重要です。
売り手と買い手双方での取り決めに関しては、どんなに些細なことでも書面で対応しておきましょう。
口約束になってしまうと後から言った・言わないの応酬になってしまい、決まりかけていた契約も解除となってしまうかもしれません。
必ず書面で対応し、契約解除のリスクを回避するようにしましょう。
今回は事業譲渡と株式譲渡の契約書内容やその注意点についてご紹介してきましたが、最後にどうしても読者の皆様にお伝えしなくてはならないことがあります。
それは、どこに相談・依頼をして会社売却を進めていくかという点です。
これだけたくさんの注意点が契約書には存在し、なおかつ相手方とも交渉していく必要があるため、M&Aアドバイザーの力は必要になってくるでしょう。
また、実績のあるアドバイザーへ相談するかしないかで、契約書の内容や契約後に訪れる可能性があるリスクの度合いも変化してきます。
M&Aで会社売却を成功させるためにも、アドバイザーの選定から力を入れることが重要なポイントとなります。
ご相談は無料です。お気軽にお声かけください。
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