財務戦略
銀行との上手な付き合い方とは?

銀行員と対峙した人ならわかると思いますが、事業資金の調達では「銀行と上手く付き合う」ことが重要です。
今回は銀行との上手な付き合い方についてお話しします。
特に企業経営者の人は、資金繰りの参考にしてください。
目次
銀行と良い関係を築くポイントとは?
銀行と良い関係を築くポイントは、なんといっても銀行員と仲良くなることです。
銀行といっても、あくまで営利企業であり、実際に融資の話をするのは銀行員という人間です。
もちろん融資審査で決定権を持つのは、現場なら支店長ですが、実際に顧客と対峙している銀行員の意見は当然に重視され、金利や返済方法、その他の条件を細かく決めるのは現場の行員です。
では、現場の行員は、どういった企業や経営者と付き合いたい、取引をしたいと考えるのでしょうか?
>>プロパー融資をうけるためのポイント/銀行を知り融資を受けるポイントを解説
銀行はどういった企業と付き合いたいのか?
「晴れた日に傘を貸し、雨が降ると傘を取上げる」
銀行はこのように揶揄されてきました。現在でははここまで極端な態度を取るところはまずありませんが、その根底で営利企業として自社の利益を優先していることは否めません。
ところで「金融仲介機能」という言葉を聞いたことはありますか?
健全な中小企業のお客さまの事業発展や個人のお客さまの生活向上に必要な信用を供与することにより、広く国民経済、地域社会の安定的な発展、公共の福祉に貢献することが、銀行の社会的・ 公共的使命であることを認識して行動する。(中略)
同時に、信用秩序の維持、預金者の保護等の観点から、銀行資産の健全性を維持することが強く求められており、リスクテイクとリスク管理をきめ細かく行い、お客さまに対する円滑な資金供給と自らの財務の健全性維持を両立させるよう努める。
<引用 一般社団法人全国銀行協会ホームページ/中小企業等に対する積極的な金融仲介機能の発揮に向けた行動指針
簡単に説明すると
●審査をして融資を決定し(信用の供与)
●企業にお金を貸す(円滑な資金供給)ことが金融の仲介機能
●融資するお金は預金が主なので、融資したお金は利息をつけて必ず回収して、預金者に返さなくてはいけない(預金者保護)
●まず銀行自身が倒れないように、融資する取引先を見極め、リスク度合いに応じた適正な取引を管理しなければならない(リスクテイクとリスク管理
●そして自らを守るために(財務の健全性を維持)取引先との付き合い方を考える必要がある
こうした金融仲介機能を発揮するために、銀行が融資する相手に求めるのは「信用」です。信用を得ることこそ、銀行と上手く付き合うポイントなのです。
信用を得るために~定期的な情報開示の重要性
信用を得るには定期的な情報開示が重要で、その具体的な方法は「期限厳守」と「愚直な繰り返し」です。
期限厳守とは
期限厳守とは、例えば決算を終えたら、速やかに決算書を銀行に持って行き、決算報告をすることです。
銀行では融資取引している顧客の決算月を時系列で把握していますが、一般的には決算から3ヶ月以内が提出する期限の目安です。これは「格付」(銀行格付、信用格付とも)作業のために、銀行が設定している期限でもあります。
ここで重要なのは期限厳守で、しかも早目に決算報告することです。
銀行は、原則的に決算報告の督促はしません。
しかし、一定の期間を過ぎた際は、銀行側は格付作業があるので、催促の連絡がいきます。
このように自発的に、前倒しで期限厳守すれば信用度が上がりますし、逆に催促されるまで動かないようでは、信用を得ることはできません。
ここでは決算書について触れましたが、これは銀行との付き合い全てに共通する事柄です。
「期限厳守が、信用を得る大前提」
経営者として、これはぜひ覚えておいてください。
愚直な対応とは
決算書だけでなく、毎月あるいは四半期に試算表などで途中経過を報告するのも重要です。
こちらも決算報告と同様に、銀行から催促されはありません。
しかしながら、自社の状況をリアルタイムで伝えるのは、実はメリットが大きいことです。
業況が順調なら、自社のアピールになりますので、銀行から新規融資の提案を受けるなど、取引拡大が期待できます。
逆に業況が良くない時こそ、定期的な業況報告をすることで、銀行の信用をつなぎ止めることもできます。
「信用を得るには、愚直な繰り返しで自社の状況をアピールすることが大前提」
リアルタイムで業況を把握するのは、銀行でも求められていることです。(「モニタリング」と言います)
銀行員から電話で
「最近はどうですか?」となにげなく、聞かれることがあります。
これは決して時候の挨拶などではなく、あなたの会社が気になっているからです。銀行から聞かれると言うことは、愚直な繰り返しができていないということです。
「御社の様子など、一度お伺いしたいのですが?」と訪問連絡があったら、かなり危ぶまれていると考えるべきです。
新規融資などセールスしたいなら、最初に「今回はいいお話がありまして」と言うはずです。
「最近どうですか?」は、聞かれてしまった時点で要注意です。
開示する具体的な書類とは?
定期的な報告の際には具体的にどういった書類を銀行は欲しいと考えているのでしょうか?
開示する具体的な書類とは、主に以下の通りです。
<開示する具体的な書類>
決算書や試算表
営業許可証やフランチャイズ契約など更新が必要なもの
会社案内や商品パンフレット
・決算書や試算表
提出サイクルや提出時期は上記しましたが、他にも留意する点があります。
「決算書は税務署提出済みの写し」が必須です。
銀行に提出する決算書は、税務申告に使用した写しでなくてはいけません。
中には「銀行提出用」「税務申告用」と2種類の決算書を作る企業も存在しているのです。
これは業況が悪化し、資金調達しづらくなるのを防ぐためなどの意図で行なわれることが多いものです。
最近では銀行側も決算書や粉飾について厳しく見ますので、あからさまにこのような方法を使う企業は減少しています。
粉飾が発覚した場合は、即座にすべての取引がストップしてしまいます。
・営業許可証やフランチャイズ契約など更新が必要なもの
共通するのは「更新が必要なものは更新されたエビデンスが必要」という点です。
特に営業許可証など公的許認可が必要なものについては、間違っても更新漏れ、更新忘れなどあってはいけません。
銀行では、忘れていたと説明しても信じてもらえません。自社の存続における根幹部分を忘れるなどあり得ないからです。
したがって、更新できていないのではなく更新できなかったとネガティブに見られてしまいます。
仮に、多忙ややむを得ない理由で更新時期が遅れる場合には、言われなくても銀行に連絡を入れるべきです。
理由に妥当性があるなら、前もって連絡したことは「真面目だ」と、むしろ好意的に捉えてもらえます。
その他にも新規事業や新商品は、積極的にアピールしましょう。
これらはもちろん紙ベースの書類以外に、ホームページ掲載でも問題ありませんし、ホームページが充実したしているのは銀行に対して好評価になります。
企業のライフステージ別、銀行との付き合い方

銀行との付き合い方は、状況により変化して来ます。
例えば規模の違い、上場規模の会社と中小企業では大きく異なりますし、同じ1つの会社でも、創業したばかりの状態と、老舗のように長く営業をつづけてきた会社でも、やはり銀行との付き合い方は違ってきます。そこでここからは企業のライフステージ(規模、成長度)による付き合い方の違いについてお話しします。
創業期
もしも創業資金から融資を受けたとしたなら、これはスタートから銀行と二人三脚で進んでいくということになります。
こうなると、最初に融資を受けた銀行が良くも悪くも、いわゆる「メイン」銀行になります。蜜月が続いていけば問題ないのですが、なにごともそう上手くはいかないものです。
いずれは2番手(準メイン)の銀行を見つけて、複数行と取引をしていくか、あるいは全面的な乗り換えを考える時期も来るでしょう。(とはいえ、そこまでになるには企業が順調に成長していることが大前提です)
いずれにせよ最初が肝心です。
創業における銀行の選択を間違えると、後々まで影響しますので、慎重に考える必要があります。
創業期の場合は、日本政策金融公庫との併用をすることで、安定した資金繰りができます。
具体的には、地域の地方銀行や信用金庫などと日本政策金融公庫との取引スタートをお勧めします。
成長期
企業が成長してくると、1つの金融機関だけの付き合いでは無理が出てきます。
たとえば資金調達でも、断られたら即終わりです。複数の銀行と取引していれば、1つ目がダメでも2つめで融資を受けられるかも知れませんし、同時申込みで良い条件を選ぶことも可能です。
このように、複数の金融機関と取引している状態を、金融機関側から表現すると「競合」と言います。
要は競争、凌ぎ合いです。
企業の成長期では、この競合を上手く利用して、自社に有利な状況を作ることが大事です。
具体的には創業期の取引銀行よりも格上、もしくは格下の銀行をサブとして取引開始を検討してみてください。
成熟期
金融機関で用いる成熟期には、ネガティブな意味合いが含まれます。成熟と言うよりは衰退と表現したほうが妥当でしょう。
企業間の競争に取り残された、扱う商品や企業ブランドが陳腐化してしまったなど、行き着くゴールは廃業やM&Aによる事業承継といった状況が成熟期のイメージです。
こうした時期では、新規事業や設備投資をする体力も尽き、往々にして今までの借入金返済の繰延、いわゆるリスケが避けられない企業も出てきます。
こうした、困ったときに助けてもらえる関係性を構築しておかないと、銀行から手のひらを返されかねません。
成熟期の状況であれば、既存の取引金融機関との関係をより深めていくことに重きをおいた方がよいでしょう。
あなたは、銀行からどのように評価されているのか?
銀行は営利企業と説明しましたが、営利企業でありながら、他の業種とは違う点も多く、代表的なのが「顧客を評価する」という点です。
銀行は顧客の格付をします。
「格付(信用格付、銀行格付)」とは、顧客をランク付けすることで、そのランクに応じて取引先の金利を設定したり、返済条件を決めたりします。
具体的には
●業績が良ければ格付も良くなる
●格付が良くなれば、金利は安くなり、融資の額は大きくなる
●金利などの条件以外でも、格付が良くなると銀行取引全体に好影響
です。
格付を決定する要素は大きく2つあります。
①決算書などの数字で評価する「定量評価」
②決算書以外、数字以外で評価する「定性評価」
では、この2つについて詳しく説明します。
決算書の評価されるポイント~数字で評価する「定量評価」
まず定量評価と定性評価についてですが、
「決算書など数字、数量で評価するから定量。将来性、成長性など特性で評価するから定性」とも言えます。
銀行における定量評価は、実にシンプルです。決算書や試算表など数字、すなわち結果がすべてで、その数値を点数化して評価するだけだからです。実際には特殊要因や、突発的な要因(今般のコロナウイルスなど)を斟酌して数値を修正(これを補正といいます)することもありますが、概ね数字だけで評価します。
決算書は定量評価の根幹であり、数値すなわち結果がすべてです。
「売上が落ちたけれど、頑張ったから今回は大目に見よう」とは絶対になりません。
決算書以外ではどこを評価するのか?
銀行における定性評価は、各社それぞれの基準で、一概に言えません。
各銀行が明確な基準を公表しない理由は、定量評価で格付が下がりそうになったとき、定性評価で救うことがあるからです。
融資取引金額が大きい、株を持ち合っているなど銀行にとっても影響が大きい取引先などでは、定量評価のみで格付けをした結果、取引先の格付が低下すると銀行の業績にも影響を与えかねません。
銀行は融資している企業の格付に応じて、回収不可能になった場合に備えて引当金を積み立てます。これを「貸倒引当金」といい、引当金を積み増しするとその期の利益が減少する仕組みです。
上記した大企業以外だけでなく、中小企業に対しても引当をしなければいけないので、格付作業で定性評価を用いて補正する、つまり銀行の決算が悪くならないように、ある程度は格付に手心を加えることが許されているのです。
具体的な定性評価の項目として
「社長は人望があり、幅広い人脈も持っている」
「地域に根ざした企業で、潰すことは地場に影響が大きい」
「売上には直結仕切れていないが、技術には定評がある」
このように、悪く言えばフワフワした表現で格付低下をおさえることもあります。
財務/経理体制構築がなぜ重要か?
「家族だけの中小企業だけれど、独立した財務経理部門がある会社」と「規模は大きいが、すべてを経営者が取り仕切っているワンマン会社」
この2つでは、銀行からどちらが評価されるでしょうか?
答えは、小さくても財務経理部門が独立している会社です。
理由はいくつかありますが、ここでも根底にあるのは「信用」です。
<財務/経理体制構築がなぜ重要か?>
財務(内)と営業(外)で相互牽制ができるから
各専門セクションが持ち場を守ってこそ会社であるから
ワンマン経営は転びやすいと銀行は経験則で知っているから
規模が小さくても、例えば家族企業なら奥さんが経理部長でも良いのです。大事なのは独立した財務/経理体制が構築されていることであり、その姿勢自体が銀行から好評価してもらえます。
まとめ
今回の内容をまとめると、
銀行と良い関係を築くポイントは、銀行員と仲良くなることです。
銀行が求めるのは信用です。信用を得る方法は「期限厳守」と「愚直な繰り返し」でしか、得ることはできません。
また、銀行は取引先を格付けしており、決算書などの数字による「定量評価」 と数字以外の事業性や社長の人柄などの「定性評価」を組み合わせて評価をしています。
いずれもごく当たり前のことですが、当たり前を当たり前にこなすのが意外に大変なのは、皆さんもおわかりだと思います。また当たり前ということは、企業、経営者、人として基本的にあるべき姿であり、銀行との付き合い方に裏ワザはありません。
このあたり、ぜひ今後の参考にしてください。