企業事例
2021/05/04
ウェディング業界大手のワタベウェディングが、3月19日に事業再生ADRを申請しました。ワタベウェディングが事業再生ADRを申請したのには、どのような背景があるのか、コロナ禍で非常に厳しいウェディング業界がどのような状況となっていくのかについて解説します。
目次
ワタベウェディングがどういった経緯で私的整理にいたったのか見ていきましょう。
そもそも「私的整理」とはどういったものなのか?
まずは「私的整理」について解説します。
事業再生ADRとは、会社更生法や民事再生などの法的手続きによらない、企業の事業再生のための私的整理手続きです。事業再生ADRの手続きは、金融機関を対象として進められる手続きで、一般顧客の前払債務や商取引債務などは対象外です。
ワタベウェディングは、3月19日に事業再生ADRを申請して受理されたと発表。そして興和からスポンサー支援を受け、完全子会社となることを目的として、出資契約を締結しました。
ですから、婚礼などの予約をしている顧客や、取引先には影響ありません。そして、ワタベウェディングは今後も婚礼や挙式・飲食や旅行などのサービスを継続します。
この点は、事業再生ADRのメリットと言えます。
ワタベウェディングは海外のリゾート挙式を事業の柱としており、新型コロナウイルス感染拡大の影響はとても大きくなりました。コロナ禍で主力の海外挙式が実施不可能になったので婚礼や宿泊・飲食・旅行などで直接的な影響を受け、昨年12月期のグループ全体の最終損益は117億円の赤字となりました。
これまで130人の希望退職の実施や、国内外の拠点を30カ所減らすなどのリストラを実施してきましたが、2020年12月末時点で債務超過になったのです。
ワタベウェディングは抜本的な対策を講じる必要があると判断し、3月19日の取締役で「事業再生ADR」を利用することを決定。事業再生ADRの対象債権者は、三菱UFJ銀行や京都銀行、日本生命など金融機関5行と事業会社1社です。
ワタベウェディングは3月19日付けで興和から支援を受け、その完全子会社を目的として出資契約を結びました。興和の完全子会社となり、今後の事業を支えてもらうことが目的です。
事業再生ADRは、あくまでも法的手続きを取らずに債務の圧縮による財務体制の改善を図る手法です。抜本的な資金繰りの改善が行われるという訳ではありません。
よって、今回のワタベウェディングは単独での再生という選択はとらず、第三者からの資金支援+債務の圧縮で再建を目指すことになります。
また興和はホテル事業を行っているので、シナジー効果を活かして、よりよい婚礼や挙式、旅行、飲食などのサービスを提供する予定です。
そしてワタベウェディングは、興和を割当先とする総額20億円の第三者割当増資を実施することに決めました。第三者割当増資は、企業の資金調達方法の一つです。特定の第三者に新株を引き受ける権利を付与して、引き受けさせる増資です。取引金融機関や取引先、自社の役職員などの縁故者に行うことが多く「縁故募集」ともいわれています。
第三者割当増資は、取引先や業務提携先との関係を安定化させるときや、経営悪化で株価が低くなり、通常の増資ができないときなどに使われます。
ワタベウェディングは興和へ第三者割当増資を行った後、株式を併合して興和の子会社となる予定です。実現すれば6月28日に上場廃止となります。ワタベウェディングはコロナ禍における経営環境が極端に悪化する中、興和から出資を受ける以外の手段がなく、既存株主に株価下落リスクの負担を避けるために上場廃止し、興和の完全子会社になることを決めたのです。
既存株主には、1株当たり180円の金銭を交付します。事業再生ADRを発表する前日の株価407円に対し、半分以下となる金額ですが、ワタベウェディングは債務超過になるなど事業が極端に悪化し、取引金融機関からの返済猶予も困難で、事業再生ADRによって多額の債務免除をせざるを得ない状況です。
新型コロナウイルスの感染拡大が続き、今後の事業改善が見込めない中、1株当たりの公正な株式価値を0~44円と算定。一定のプレミアムをつけて180円としたのです。
ワタベウェディングの株価は、事業再生ADRの発表後に急落し、1株当たりの金銭交付価格に近い200円前後に下落しています(4月7日時点)。今後も、この水準近辺での値動きとなりそうです。
>>WBF(ホワイト・ベアファミリー)の民事再生とコロナ禍における宿泊/旅館業界の課題
ここからはブライダル業界について詳しくみていきましょう。
ワタベウェディングはブライダル業界の大手です。ブライダル業界とは、結婚式場の運営だけでなく、結婚式のプロデュースや婚礼衣装・備品の賃貸や販売、結婚情報サービスなど様々な関連サービスがあります。
ブライダル業界は参入障壁が比較的低く、異業種からの参入も多い業界です。また、サービスの差別化が難しいので価格競争に陥る傾向もあります。そして、20~30代といった主な顧客層の婚礼に対する意識や嗜好の変化に敏感です。
経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」によると、結婚式の1件当たり費用は280万円です。集客と成約率をいかに高めるかが、ブライダル業界によって重要なファクターになります。
ただ、晩婚化や非婚化により婚姻件数自体は減少傾向にあるものの、コロナ禍前のブライダル業界の業績は堅調に推移していました。大手では婚礼組数が増加して1件当たりの単価も上昇していたからです。
とくに比較的高価なハウスウェディングや、沖縄などリゾート地でのウェディングの人気がありました。
結婚は通過儀礼の一つなので、恒常的な需要が見込めます。しかし、少子高齢化による結婚適齢期人口の減少や未婚率の増加など、マクロ環境としてはマイナス要因が多くあります。
そしてブライダル業界の中で最大の割合を占める挙式や披露宴においても、リゾート婚や少人数での会食など価格を抑えた形態や、挙式を行わない「ナシ婚」などが増えており、今後の大幅な増加は難しい状況です。
そして、消費者の結婚に対する考え方は多様化しており、これまでのような一律のサービスでなく、消費者のニーズをつかんだきめ細かいサービスを提供することが、これからのウェディング業界にとって重要になっているのです。
ウェディング業界の事業特性は、主に以下の3つです。
・季節によって挙式数の差が大きい
・基本的に固定客はいない
・ウェディングプランナーの存在が大きい
それではそれぞれ詳しく見ていきましょう。
挙式数の割合は、季節によって大きく異なります。春頃や秋口に挙式や披露宴を挙げたいという顧客が多いからです。また挙式や披露宴は大安が好まれ、赤口や仏滅は避けられる傾向にあるので、日によっても繁閑の差が大きくなる傾向があるのです。
挙式や披露宴は固定客やリピーターが基本的におらず、常に新規顧客を開拓する必要があります。ですから、結婚情報サービス業者への登録や広告宣伝に力を入れ続ける必要があるのです。ただ、友人や親戚の挙式・披露宴に参加した人が、自らの挙式・披露宴もそこで行うという側面もあります。
ウェディングプランナーは、結婚式を挙げたいカップルに適した挙式を提供する大切な職種です。挙式・披露宴会場を選ぶのは、通常、何カ所か回った上で決定しますが、その際に重要なのがウェディングプランナーの存在だからです。
成約率を上げるために顧客のニーズをつかみ、魅力的な提案をすることができるウェディングプランナーの存在は不可欠であり、ウェディングプランナーの退職や異動により成約率が著しく変化するといったこともウェディングプランナー業界の大きな特徴となっています。
新型コロナウイルスの感染拡大は、ブライダル業界にも大きな影響を与えています。結婚式の式場やホテルなどが加盟する「日本ブライダル文化振興協会」によると、2020年の1年間で、新型コロナウイルスの感染拡大により延期や中止になった結婚式は24万組に上り、業界の経済損失は8,500億円になると推計されています。
挙式や披露宴では大勢の人が集まり、飲食を伴うことがほとんどです。新型コロナウイルスの感染拡大リスクを考えると、自粛する人が増えるのは仕方ないことです。ただ、コロナ禍においては、感染予防対策として Web会議ツールを利用したオンライン結婚式を開くなど、各社で創意工夫を凝らしています。
また、延期の場合はキャンセル料がかかるのが一般的ですが、半年間の延期の場合は無料とするなど、対策を講じている会社もあります。今後は新型コロナウイルスの感染対策をしながら挙式や披露宴を行うといった、時代に合わせた形がブライダル業界にも求められているのです。
ウェディング業界は、これまでホテルや専門結婚式場がメインでしたが、1990年代以降はハウスウェディングでの挙式・披露宴が人気になりました。そして、ハウスウェディングで急成長し、業界トップになったのがテイクアンドギヴ・ニーズです。
テイクアンドギヴ・ニーズは1998年に設立されたハウスウェディング大手。2019年3月末時点で全国に67店舗(102会場)を運営しています。テイクアンドギヴ・ニーズは一軒家を完全に貸し切り、一顧客一担当制でのサービスを行うことが特徴です。
また、レストランウェディングも一般的になりました。レストランウェディングでは形式にとらわれず、アットホームな雰囲気のレストランでの結婚式。普段はレストランとして営業している店を貸しきり、シェフのおいしい料理でゲストに気持ちを伝えられるウェディングなのです。
このように挙式・披露宴のニーズは多様化していますが、挙式一組当たりの単価は上昇傾向にあります。今後は同業の買収だけでなく、ブライダル事業に関連する企業(婚礼衣装の販売やレンタルを行う企業など)を買収する事例も増えていくことが予想されます。
ただ、新型コロナウイルスの感染拡大で業界全体が厳しい中、積極的な事業展開をする企業は限られるでしょう。
ワタベウェディングは専門結婚式場の大手でしたが、海外挙式などができなくなり、債務超過に陥りました。そして、事業再生ADRを申請し、興和の子会社になって再建を目指しています。事業はこれまで通り継続するということですが、興和とのシナジー効果はどの程度なのか、何か新しい事業を行っていくのかが注目されます。
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