財務戦略
2020/12/20
銀行員と接したことがある人ならわかると思いますが、事業資金の調達では「銀行と上手く付き合う」ことが重要です。
銀行と良い関係を築くポイントは、なんといっても銀行員と仲良くなることだといえます。
銀行はあくまでも営利企業であり、融資の話をするのは銀行員という人間です。
もちろん融資審査で決定権を持つのは、現場なら支店長ですが、実際に顧客と接している担当者の意見が重視されます。
そして、金利や返済方法、その他の条件を細かく決めるのは担当の銀行員です。
現場の銀行員は、どういった企業や経営者と付き合いたい、取引をしたいと考えるのでしょうか?
今回は銀行との上手な付き合い方についてお話しします。
特に経営者の方は、資金繰りの際の参考にしてください。
目次
銀行が融資する際に重視しているのが「信用できるかどうか」です。なぜなら、銀行は下記の行動指針に従って行動をしているからです。
健全な中小企業のお客さまの事業発展や個人のお客さまの生活向上に必要な信用を供与することにより、広く国民経済、地域社会の安定的な発展、公共の福祉に貢献することが、銀行の社会的・ 公共的使命であることを認識して行動する。(中略)
同時に、信用秩序の維持、預金者の保護等の観点から、銀行資産の健全性を維持することが強く求められており、リスクテイクとリスク管理をきめ細かく行い、お客さまに対する円滑な資金供給と自らの財務の健全性維持を両立させるよう努める。
<引用 一般社団法人全国銀行協会ホームページ/中小企業等に対する積極的な金融仲介機能の発揮に向けた行動指針
簡単に説明すると
●審査をして融資を決定し(信用の供与)
●企業にお金を貸す(円滑な資金供給)ことが金融の仲介機能
●融資するお金は預金が主なので、融資したお金は利息をつけて必ず回収して、預金者に返さなくてはいけない(預金者保護)
●まず銀行自身が倒れないように、融資する取引先を見極め、リスク度合いに応じた適正な取引を管理しなければならない(リスクテイクとリスク管理
●そして自らを守るために(財務の健全性を維持)取引先との付き合い方を考える必要がある
このことから、銀行は信用できる企業と付き合いたいと考えています。
信用を得るには定期的な情報開示が重要で、その具体的な方法は「期限厳守」と「定期的な報告の繰り返し」です。
それぞれ詳しく説明します。
期限厳守とは、例えば決算報告をする目安の期限を守ることです。決算を終えたら、速やかに決算書を銀行に持って行き、決算報告をする必要があります。
銀行では融資取引している顧客の決算月を時系列で把握していますが、一般的には決算から3か月以内が提出する期限の目安です。これは「格付」(銀行格付、信用格付とも)作業のために、銀行が設定している期限でもあります。
ここで信用度を上げるために重要なのは期限厳守で、さらに早目に決算報告するとより効果的です。
銀行は、原則的に決算報告の督促はしません。しかし、一定の期間を過ぎた際は、銀行側は格付作業があるので、催促の連絡をします。自発的に、前倒しで期限厳守すれば信用度が上がりますし、逆に催促されるまで動かないようでは、信用を得ることはできません。
ここでは決算書について触れましたが、これは銀行との付き合い全てに共通する事柄です。
「期限厳守が、信用を得る大前提」
経営者として、これはぜひ覚えておいてください。
決算書だけでなく、毎月あるいは四半期一度など定期的に試算表などを見せて、業況を報告することも重要です。こちらも決算報告と同様に、銀行から催促されるわけではありません。
しかしながら、自社の状況をリアルタイムで伝えるのは、実はメリットが大きいことです。業況が順調なら、自社のアピールになりますので、銀行から新規融資の提案を受けるなど、取引拡大が期待できます。
逆に業況が良くない時こそ、定期的な業況報告をすることで、銀行の信用をつなぎ止めることもできます。
リアルタイムで業況を把握するのは、銀行でも求められていることです。(「モニタリング」と言います)
銀行員から電話で「最近はどうですか?」となにげなく、聞かれることがあります。これは決して時候の挨拶などではなく、あなたの会社が気になっているからです。銀行から聞かれると言うことは、定期的な報告ができていないということです。
「御社の様子など、一度お伺いしたいのですが?」と訪問連絡があったら、かなり危ぶまれていると考えるべきです。新規融資などセールスしたいなら、最初に「今回はいいお話がありまして」と言うはずだからです。
「最近どうですか?」は、聞かれてしまった時点で要注意です。
また、銀行の担当者は数年で変わるため、そのタイミングで自社のアピールをしっかりしておくことも重要です。引き継ぎがきちんと行われないケースもあります。
定期的な報告の際には具体的にどういった書類を銀行は欲しいと考えているのでしょうか?
開示する具体的な書類とは、主に以下の通りです。
<開示する具体的な書類>
決算書や試算表
営業許可証やフランチャイズ契約など更新が必要なもの
会社案内や商品パンフレット
一つずつ解説していきます。
提出サイクルや提出時期は上記しましたが、他にも留意する点があります。「決算書は税務署提出済みの写し」が必須だということです。銀行に提出する決算書は、税務申告に使用した写しでなくてはいけません。
中には「銀行提出用」と「税務申告用」の2種類の決算書を作る企業も存在します。これは業況が悪化し、資金調達しづらくなるのを防ぐためなどの意図で行われることが多いものです。
銀行側も決算書や粉飾については厳しく見ますので、あからさまにこのような方法を使う企業は減少していますが、粉飾が発覚した場合は、即座にすべての取引がストップしてしまいます。
営業許可証やフランチャイズ契約など更新が必要なものについて共通するのは「更新が必要なものは更新されたエビデンスが必要」という点です。
特に営業許可証など公的許認可が必要なものについては、間違っても更新漏れ、更新忘れなどあってはいけません。銀行では、忘れていたと説明しても信じてもらえません。自社の存続における根幹部分を忘れるなどあり得ないからです。
したがって、「更新できていない」のではなく「更新できなかった」とネガティブに見られてしまいます。
仮に、多忙ややむを得ない理由で更新時期が遅れる場合には、言われなくても銀行に連絡を入れるべきです。理由に妥当性があるなら、前もって連絡したことは「真面目だ」と、むしろ好意的に捉えてもらえます。
新規事業や新商品は、パンフレットなどを見せて積極的にアピールしましょう。
これらはもちろん紙ベースの書類以外に、ホームページ掲載でも問題ありませんし、ホームページが充実していると銀行からの好評価につながります。
銀行との付き合い方は、状況により変化します。
例えば規模の違いだと、上場規模の会社と中小企業では大きく異なります。同じ会社でも、創業したばかりの状態と、老舗のように長く営業を続けている状態とでは、やはり銀行との付き合い方は違ってきます。
そこでここからは企業のライフステージ(規模、成長度)による付き合い方の違いについてお話しします。
もし創業資金から融資を受けたとしたら、これは最初から銀行と二人三脚で進んでいくということになります。
こうなると、最初に融資を受けた銀行が良くも悪くも、いわゆる「メイン」銀行になります。蜜月が続いていけば問題ないのですが、そう上手くはいかないものです。
いずれは2番手(準メイン)の銀行を見つけて、複数行と取引をしていくか、あるいは全面的な乗り換えを考える時期も来るでしょう。そこまでになるには企業が順調に成長していることが大前提ですが、いずれにせよ最初が肝心です。
創業における銀行の選択を間違えると、後々まで影響しますので、慎重に考える必要があります。
創業期の場合は、日本政策金融公庫との併用をすることで、安定した資金繰りができます。
具体的には、地域の地方銀行や信用金庫などと日本政策金融公庫との取引をスタートすることをおすすめします。
企業が成長してくると、1つの金融機関だけの付き合いでは無理が出てきます。
例えば資金調達でも、断られたら即終わりです。複数の銀行と取引していれば、1つ目がダメでも2つ目で融資を受けられるかもしれませんし、同時に申し込みをして良い条件のほうを選ぶことも可能です。
このように、複数の金融機関と取引している状態を、金融機関側から表現すると「競合」と言います。
企業の成長期では、この競合を上手く利用して、自社に有利な状況を作ることが大事です。
具体的には創業期の取引銀行よりも格上、もしくは格下の銀行をサブとして取引することを検討してみてください。
金融機関で用いる成熟期には、ネガティブな意味合いが含まれます。成熟と言うよりは衰退と表現したほうが妥当でしょう。
企業間の競争に取り残された、扱う商品や企業ブランドが陳腐化してしまったなど、行き着くゴールは廃業やM&Aによる事業承継といった状況が成熟期のイメージです。
こうした時期では、新規事業や設備投資をする体力も尽き、往々にして今までの借入金返済の繰延、いわゆるリスケが避けられない企業も出てきます。
こうした、困ったときに助けてもらえる関係性を構築しておかないと、銀行から手のひらを返されかねません。成熟期の状況であれば、既存の取引金融機関との関係をより深めていくことに重きをおいたほうがよいでしょう。
銀行は営利企業と説明しましたが、営利企業でありながら、他の業種とは違う点も多くあります。代表的なのが「顧客を評価する」という点です。
銀行は顧客の格付をします。「格付(信用格付、銀行格付)」とは、顧客をランク付けすることで、そのランクに応じて取引先の金利を設定したり、返済条件を決めたりします。
具体的には
●業績が良ければ格付も良くなる
●格付が良くなれば、金利は安くなり、融資の額は大きくなる
●金利などの条件以外でも、格付が良くなると銀行取引全体に好影響
です。
格付を決定する要素は大きく2つあります。
決算書などの数字で評価する「定量評価」
決算書以外、数字以外で評価する「定性評価」
では、この2つについて詳しく説明します。
銀行における定量評価は、実にシンプルです。決算書や試算表など数字、すなわち結果がすべてで、その数値を点数化して評価するだけだからです。
実際には特殊要因や、突発的な要因(コロナウイルス感染拡大など)を考慮して数値を修正(補正)することもありますが、概ね数字だけで評価します。
決算書は定量評価の根幹であり、数値すなわち結果がすべてです。「売上が落ちたけれど、頑張ったから今回は大目に見よう」とは絶対になりません。
銀行における定性評価は、各社それぞれの基準で、一概に言えません。各銀行が明確な基準を公表しない理由は、定量評価で格付が下がりそうになったとき、定性評価で救うことがあるからです。
融資取引金額が大きい、株を持ち合っているなど銀行にとっても影響が大きい取引先などでは、定量評価のみで格付けをした結果、取引先の格付が低下すると銀行の業績にも影響を与えかねません。
銀行は融資している企業の格付に応じて、回収不可能になった場合に備えて引当金を積み立てます。これを「貸倒引当金」といい、引当金を積み増しするとその期の利益が減少する仕組みです。
大企業以外だけでなく、中小企業に対しても引当をしなければいけないので、格付作業で定性評価を用いて補正する、つまり銀行の決算が悪くならないように、ある程度は格付に手心を加えることが許されているのです。
具体的な定性評価の項目として、以下のようなものがあります。
「社長は人望があり、幅広い人脈も持っている」
「地域に根ざした企業で、潰すことは地場に影響が大きい」
「売上には直結しきれていないが、技術には定評がある」
このように、明確な基準を設けにくい項目で格付低下をおさえることもあります。
「家族だけの中小企業だけれど、独立した財務経理部門がある会社」
「規模は大きいが、すべてを経営者が取り仕切っているワンマン会社」
この2つでは、銀行からどちらが評価されるでしょうか?答えは、小さくても財務経理部門が独立している会社です。
財務/経理体制構築がなぜ重要なのか、理由はいくつかあります。
財務(内)と営業(外)で相互牽制ができるから
各専門セクションが持ち場を守ってこそ会社であるから
ワンマン経営は転びやすいと銀行は経験則で知っているから
ここでも根底にあるのは「信用」だといえます。
規模が小さくても、例えば家族企業なら奥さんが経理部長でも良いのです。大事なのは独立した財務/経理体制が構築されていることであり、その姿勢自体が銀行から好評価してもらえます。
銀行との付き合い方や評価されるポイントについて解説しました。
銀行と良い関係を築くポイントは、銀行からの信用を得ることです。そして、信用を得る方法は以下のとおりです。
銀行から信用を得るポイント
・報告の期限を厳守する
・定期的な報告を繰り返す
いずれもごく当たり前のことですが、当たり前を当たり前にこなすのが意外に大変なことは、皆さんもおわかりだと思います。また当たり前ということは、企業、経営者、人として基本的にあるべき姿であり、銀行との付き合い方に裏ワザはありません。
このあたり、ぜひ今後の参考にしてください。
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