企業事例
2021/05/04
フタバ図書(広島)は、2021年1月に事業再生ADRを申請しました。今回の再建策の原因は何なのか、そして事業再生ADRとはどのような仕組みなのかについて解説します。
目次
広島の書店チェーンのフタバ図書は、2021年1月28日に私的整理の一種である事業再生ADRで再建に乗り出す方針を発表しました。書籍販売などの事業を新しく立ち上げる会社に譲渡し、雇用や店舗の大半を維持する見通しです。
フタバ図書は1997年以降、CDやDVDなどのレンタルサービスを併設した大型の複合書店を出店。さらに2014年にコンビニ、2018年にフィットネスクラブに参入しました。
しかし、それらの事業多角化が失敗したことや、書店業界を取り巻く環境が悪化したことにより、収益や資金繰りが厳しい状況になっていたのです。
2019年6月には書店で新刊の入荷が止まることもあり、2020年3月期の売上は240億円ありましたが、最終損益は赤字でした。
新会社には日本出版販売、エディオン、ひろしまイノベーション推進機構、もみじ銀行などが計9億円出資。店舗数は基本的に維持し、数店舗だけ閉鎖します。
事業再生ADR は、過剰債務に悩む企業の問題を解決するために生まれた制度です。ADR(Alternative Dispute Resolution)は「裁判外紛争解決手続き」のことで、訴訟手続きではなく公正な第三者が関与して、紛争の解決を図ります。
事業再生ADRでは、企業の早期事業再生を支援するため、中立的な専門家が債務者と金融機関などの債権者との間の調整をおこないます。
民事再生法や会社更生法などの法的手続きを使わず、債務者と債権者の合意に基づき金融機関の債務などを猶予・減免することにより、経営困難な状況にある企業を再建することを目指す制度なのです。
事業再生ADRのメリットとして、以下のような点があります。
事業再生ADRでは、手続きの実施を公表する必要がありません。また上場企業は、上場の維持が可能です。
債権者との取引を円滑に継続でき、つなぎ資金の借り入れも可能です。また債務免除に伴う税制上の優遇措置があるという点もメリットです。
令和2年3月までに253社の手続利用申請があり、210社で事業再生計画案に対し債権者全員が合意しています。田淵電機株式会社や曙ブレーキ工業株式会社など東証一部に上場している企業も利用しており、書籍・雑誌小売業の株式会社文教堂グループホールディングス(ジャスダック)も事業再生ADRを利用しています。
>>ワタベウェディングの事業再生ADR コロナ禍におけるブライダル業界の課題とは
ここからは出版業界の現状と課題について見てきます。
他の卸売業(流通)とは違い独特の商習慣などもあります。
その辺りも含めて詳しく見ていきましょう。
出版業界は、主に総合出版社、文芸出版社、教育出版社に分類できます。総合出版社は、集英社・講談社・小学館・KADOKAWAが4強。売上高1,000億円規模を維持していますが、売上は減少傾向にあります。
とくにKADOKAWAは出版事業のみでは厳しいのでデジタル化を進めています。2011年にはドワンゴと資本提携をおこない、電子書籍を共同で開始。現在では出版事業だけでなく、電子書籍や動画配信サービスなどが統合されたメディアになっています。
全国出版協会・出版科学研究所によると、2018年の出版市場全体の市場規模は1兆5,400億と言われています。2000年度以降、紙の出版物は減少傾向が続いています。娯楽の多様化が進んでいることにより、今後はデジタル化への対応やこれまでの紙の出版を前提とした商習慣を見直す必要があるのです。
とくに雑誌の売上は低迷しています。スマートフォンやタブレットでニュースなどが読めるようになったからです。
そして出版業界では、出版事業者・取次事業者・書店による強固な関係があります。出版物は独占禁止法の対象外なので、出版社が小売価格を指定して販売する「再販制度」によって、自由な競争が起きにくい業界でした。
しかし、2006年にアマゾン・ドット・コムが出版社と直接取引をおこなう「e託販売サービス」を開始し、出版物がインターネットで販売されるようになりました。
はじめは出版業界からの反発が大きかったものの、Eコマースが普及するにつれて出版物のインターネット販売は定着しました。
しかし紙と電子を合わせた出版市場のうち、書籍・雑誌の紙の出版物は全体の84%を占めています。一部のベストセラーは紙媒体でも売れているものの、出版市場全体では14年連続減少しており、今後も販売低迷は続くでしょう。
ただ、まだ市場規模は小さいものの、電子書籍は伸びています。2018年の市場規模は2,826億円で、コミックが80%以上を占めています。2019~23年度の年平均成長率は5%で、今後も伸びが期待できる分野です。
紙媒体と比べると、電子書籍の市場規模は依然として小さいのが現状です。また、電子書籍はオンラインでは10~50%程度値引きされていることも珍しくありません。
消費者が紙媒体の定価以下の購入に慣れてしまうことや、複製が容易だという課題があるのです。
2020年の新型コロナウイルスの感染拡大は、出版業界にも大きな影響を与えました。緊急事態宣言の発令で取材などができなくなり、雑誌の休刊が相次いだほか、広告収入が大幅に減少したからです。
また書店は休業要請の対象ではなかったものの、大型商業施設の書店は休業せざるをえず、都心の大型書店は在宅勤務の増加により客数が大幅に減少しました。
ただ、自宅で過ごす時間が増えたことにより、コミックやビジネス書、学習参考書などの売れ行きが好調だったほか、郊外型や地域の書店には多くの人が訪れるという現象も見られました。
なかでも集英社の「鬼滅の刃」は2020年12月時点で1億2,000万部を突破し、大ヒットとなっています。
また、出版社は書店などへの対面営業が難しくなったことから、DX化を進めました。DXとは、ITを活用して組織やビジネスモデルを変えることです。出版社はオンライン会議システムを利用した営業を開始したのです。
複数の書店が参加する書店向けのWeb商談会も開かれました。いち早くオンライン会議システムを利用したのがKADOKAWAで、2020年6月に開始しています。
また日経BPはYouTubeチャンネルを開設。そのほかにも個別書店とのオンライン商談の場を開きました。
DX化は新型コロナウイルス対策としておこなわれましたが、多くと取引先とコストをかけずに商談できることや、いつでも開催できるなどのメリットが多いので、今後も続けられる可能性は高いと考えられます。
2017年からアマゾン・ドット・コムが出版社との直接取引を開始しました。今後は取次業者の存在が危ぶまれる可能性もあります。また、返品制度の問題をどうするかという課題も残ります。
返品制度とは、書店が取次店から仕入れた出版物を出版社に返品できる制度ですが、実際の返品率は40%前後と高くなっているからです。
今後もスマートフォンやタブレットで情報を入手するという動きは加速すると見られ、出版市場全体は縮小を続けるでしょう。しかし電子書籍は伸びており、デジタル化への対応が求められます。
出版業界のM&Aとしては、大手印刷会社が顧客である出版社や書店をM&Aすることや、取次会社が書店をM&Aするなど、同業の規模を追求するM&Aが少ないのが特徴です。
出版業界で積極的にM&Aをおこなう企業としては、TSUTAYAを展開するCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)が有名です。2017年に大日本印刷株式会社から株式会社主婦の友社をM&Aしました。また、徳間書店やしん文堂もM&Aしており、コンテンツ制作から書店での販売までおこなっているのです。
またKADOKAWAは、2014年に買収した株式会社ドワンゴを2019年4月に子会社化しています。KADOKAWAは出版事業だけでなく、ゲームや映像、ウェブサービスなどをおこなっています。
50社ほどの子会社が出版やエンタメに別れ、それぞれグループ会社の形を取っているのです。ドワンゴはニコニコ動画やゲームの企画など、さまざまなコンテンツを制作しています。
出版業界には厳しい状況が続いていますが、今後はデジタル化へのシフトとコンテンツ制作が生き残るカギです。アマゾンやネットフリックスなどは独自コンテンツや面白い番組が豊富にあります。
これらの番組はスマホやタブレットなどでも気軽に楽しめ、さらに子どもから大人まで楽しめという特徴があるのです。
出版業界もオリジナルコンテンツとデジタル化を進める必要があります。そのためには異業種とのM&Aは魅力的です。制作から編集、販売までおこなうことで、読者ニーズを捉えた質の高いコンテンツの制作や販売をおこなうことが可能になるからです。
さらにクールジャパン戦略として漫画などを海外に積極的に輸出する手段として、海外展開を意識したM&Aも有効です。
フタバ図書の私的整理は、事業の多角化の失敗という面もありますが、出版業界の厳しさを示した一例といえます。娯楽の多様化により出版業界は今後も厳しくなることが予想されるので、デジタル化への対応やコンテンツ作成など、新しい分野に進出しないといけません。
そのためには、異業種とのM&Aを前向きに検討し、提携企業と海外展開も視野に入れながら成長していく必要があるでしょう。
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