M&A
2019/09/07
M&Aでは代表的な譲渡方法として「株式譲渡」と「事業譲渡」の2種類が存在します。
それぞれの譲渡方法にメリット/デメリットが存在するため、会社の規模や置かれている状況によってどちらの譲渡方法が最適か見極めることが大切です。
そのためにも、まずは株式譲渡と事業譲渡にはどのような違いがあるのか、把握しておく必要があります。
正しい知識を得ることは、売手企業にとっても、買手企業にとってもM&Aで成功するための重要な要素となってきます。
今回の記事を参考にしながら具体的な違いを理解していきましょう。
目次
昨今、中小企業においてもM&Aを行いグループ化、強固な提携関係を構築する
企業が増えました。
これまで一つの会社を経営していくのが当たり前の時代であったものが、いつの間にかそれまでの名前に「ホールディングス」と付けたり、M&Aによって複数の企業連合軍ができたと考えて良いでしょう。
最近では大手だけでなく中小企業でもM&Aが頻繁に行われています。
ただし、その方法はいくつかに分かれ、業務提携や資本提携、分割、買収など多岐にわたっています。
M&Aというと、未だにネガティブなイメージが根強い日本では、かつて行われた敵対買収=M&Aとインプットされている傾向にあります。
特に年齢の高い経営者にとっては、敵対買収のイメージが強く残っていることでしょう。
その様な中でも中小企業で「このままだと経営を続けられない」という経営困難に陥ってしまったケースや、後継者不足によって第三者へ事業を引き継ぐケースは今後増えてくると考えられます。
経営者個人としてはこうした場合に備え、最適な方法での譲渡を検討し、そのための手続きを進めていく必要があるでしょう。
自社の状況から最適な方法で譲渡するためにも、株式譲渡や事業譲渡といったそれぞれの譲渡方法の特徴を知っておくことが大事です。
M&Aによる会社売却は大企業よりも圧倒的に中小企業が多いです。
主な譲渡方法は「株式譲渡」と「事業譲渡」の2つと言えます。
その代表的な譲渡方法である「株式譲渡」と「事業譲渡」、それぞれの特徴を解説していきます。
中小企業の場合、株式会社なら経営者本人がほとんどの株式を所有するケースが多いです。
もしくは親族や身内が一部を所有するケースもあります。
つまり、上場企業などと違い経営者または近しい人物が株式を持っているのです。
経営方針などを決める場合、株主が多いとそれだけ様々な意見が出て、なかなかまとまりません。
ましてや会社の売却など、大きな決断の際にはなおのことです。
中小企業だと会社経営に関する様々な変更を議決にかけた際に、採決に必要な過半数もしくは3分の2以上にわたる議決権を代表者やその親族が保有しているため、事実上、代表者の考えで会社の方針は決定します。
株式譲渡では、売り手側の株主が会社の株式を売却し、買い手側が株式を買って所有権を動かします。
中小企業の場合、経営者自身が筆頭株主であるケースが多く、M&Aで株式譲渡を行う際に所有権と経営権が共に買い手側へ移ります。
つまり、株式を譲渡することで、会社のオーナーが変わるのです。
会社の所有権・経営権がそのまま買い手側に移るため、会社そのものを売却するイメージです。
売り手側にとってのメリットは、会社がそのまま買い手側の子会社となるため、会社自体は存続させられること、株式の比率を調整してもらえば意思決定の権利を持てることが挙げられます。
経営権自体は買い手企業に移りますが、現在の経営者が株式を1/3以上保有していれば、株主総会での特別決議でも否決することが可能です。
売却後の株の保有を希望する場合は、買手企業との条件交渉が必要です。
依頼するアドバイザーと連携して条件交渉を行いましょう。
一方、買い手側のメリットは会社を存続させながら引き継げるため、許認可などを新たに取得する手間が省けます。
売り手側のデメリットは、株式が分散している場合はそれぞれが保有している株式をまとめておかないと譲渡できないため、事前に株式を買っておく必要があります。
買い手側の場合、会社をそのまま引き継ぐため、売り手側が抱える負債・簿外債務までまとめて引き継いでしまう可能性があります。
デューデリジェンスをしっかりと行っておかないと、大きな損失を被ってしまうリスクもあるため注意が必要です。
株式譲渡では法務局へ申請手続きを行わなくても良いことから、できるだけ自社で書類作成などを済ませたいと考える方も多いでしょう。
確かに自社で全て問題なく書類・手続きを行えばコストの削減にもつながりますが、万が一書類に不備があっても差し戻されることがないため、後々重要な場面でトラブルになってしまう可能性も考えられます。 そうならないためにも、株式譲渡であってもできるだけ書類作成などは専門家に依頼した方が安心です。
>>M&Aの結果を左右するM&Aアドバイザー。その具体的な仕事と求められる能力とは
事業譲渡とは、会社の一部事業を売却する方法です。
事業も一部のみを譲渡するのか(一部譲渡)、それとも事業の全てを譲渡するのか(全部譲渡)で手法が変わり、置かれている状況によってどちらの手法を取るか判断します。
事業譲渡の場合、「ヒト」「モノ(商品やブランド、工場などの施設)」「権利(取引先との契約など)」といった無形・有形を問わず譲渡対象になり、それぞれ個別に承継することが可能です。
さらに、事業を売却しても経営権が買い手側に移るわけではないため、事業を売却した後でも会社名を残したまま経営できます。
事業譲渡における売り手側のメリットは、採算が取れていなかった不採算部門の事業を手放してメイン事業に注力できる点が挙げられます。
手広く事業を拡大させていくと、採算が取れる事業と不採算事業が見え始め、不採算事業は経営を圧迫している可能性が非常に高いです。
資金や従業員などが不足しており、なかなか事業を進められていない場合には事業譲渡した方が経営的にも安定しやすくなります。
買い手側のメリットは、必要な事業だけを得られるため余計なコストが掛からない、売り手側の負債をまとめて引き継ぐ必要がないといった点が挙げられます。
事業譲渡は細かい内容で承継できる反面、手続きが煩雑で時間がかかること、事業譲渡を行うと20年間は同一の自治体や隣接する自治体で同一の事業が行えなくなってしまうこと(競合避止条項といい、買手企業との売却後の取り決めとしてある)がデメリットになります。
特に、譲渡企業は一定期間、同じ地域もしくは隣接する地域で譲渡した事業を行えなくなってしまうことが契約上、定められた場合、再び手放した事業を取り扱いたいと思っても事業を行うことは難しいと覚えておきましょう。
買い手側も、売り手側と同様に手続きが複雑だったり、株式譲渡と違って許認可まで譲渡されないため、新たに事業の許認可を取得したりするなど、手続きや調整の項目が増え、時間が掛かってしまう点がデメリットです。
また、複数の事業を行っている企業ならまだしも、中小企業の場合、1つの事業体で経営をしている企業が多くあります。そういった場合、事業譲渡により事業を売却してしまうと、その後の収入が一切なくなる可能性がある点も考えておく必要があります。
事業譲渡の場合、不動産取得税や登録免許税など、様々な税務が発生してしまい負担が大きくなってしまいます。
さらに、売り手企業には譲渡で得た利益にかかる法人税、買い手企業には引き継いだ財産に対する消費税がかかってくるのです。
このような税務負担があることも、念頭に置いておきましょう。
譲渡価格の算定は、株式譲渡と事業譲渡で方法が異なります。
上場していない企業の株式譲渡では、
・純資産価額方式
・類似業種批准方式
・配当還元方式
の3種類があります。
純資産価額方式は資産を全て売却し、負債や税金を全て引いた後の価額を見るもので、小規模企業の算定におすすめです。
類似業種批准方式は類似する上場企業と比較して株式価額を算出する方法で、比較的大きな会社の算定に向いています。
配当還元方式は、企業の配当から1株あたりの評価額を算出する方法です。
この方法は一般的に評価するための計算が困難で、一般的には上記2つの評価方法が使われています。
事業譲渡の場合、「事業時価純資産+のれん代(営業権)」で算定していきます。
事業時価純資産は貸借対照表の簿価総資産を全て時価で算出・合計し、時価評価された負債を差し引いたものです。
のれん代は「正常営業利益×3~5年」で算出できます。
株式譲渡の算定方法と比較すると、時価評価となるため複雑で分かりにくくなっています。
もしも株式譲渡を選択した場合、個人株主として臨むのか、それとも法人株主として臨むのかで課税方法は変わってきます。
個人株主の場合は「分離課税」、法人株主の場合は「総合課税」となり、その後事業をどうするかによって支払う税金は大きく異なってくるのです。
例えば株式譲渡の場合、株式の売却額(譲渡所得)に応じて税金が発生するのですが、譲渡所得に対する税率は所得税15%・住民税5%の20%になります。
事業譲渡の場合は、事業譲渡の代金がそのまま利益になると想定した場合、消費税の負担と法人税(35%~40%)が譲渡代金に対して発生すると想定すれば、株式譲渡の方が税率が低くなることがわかります。
株式譲渡の場合は、そのまま会社を譲渡するので負債や将来的なリスクまで買い手側に引き継がれることになり、多大な費用を要することになるでしょう。
基本的には株式譲渡後に借入金をまとめて返済する、もしくは買い手企業が借入金の借り換えを行って返済していく方法が取られます。
一方、事業譲渡だと事業のみ売却することになり、負債や将来的なリスクはそのまま売り手側に残ります。
譲渡益を使って借入金をまとめて返済するケースも多いですが、全てを返済に使うのではなく、一部を新規事業に投資するケースもあります。
譲渡益の使い方に関しては経営者の判断に委ねられるので、会社の将来も見通した上で判断するようにしましょう。
問題となるのは、譲渡価格よりも負債が大きい場合です。
そういった問題が気になる方は是非こちらをご覧ください。
>>株式譲渡と事業譲渡での借入金の取扱いの違いとは
株式譲渡か事業譲渡か、どちらを選ぶのか迷っている経営者の方も多いでしょう。
最後に、経営者としてどちらの譲渡方法で売却するべきかのポイントをご紹介します。
株式譲渡は、会社を存続させたいものの後継者が不在、経営者を引退してからの資金を作りたい、債務保証から解放されたいといったケースに向いています。
買い手側も、売り手側のブランドや人材、許認可などがまとめてほしい場合や、拠点を広げたい場合に有効です。
株式譲渡は会社を丸ごと売却するようなイメージになるため、事業譲渡に比べて取引価格が大きくなります。
もし多額の負債を抱えていても、譲渡益から賄える可能性は高いです。
さらに、譲渡益から創業者利益を獲得し、経営を引退後に悠々自適な生活を送れるかもしれません。
例えば
・事業譲渡の対価で負債の返済ができない企業
・ある程度の企業規模(従業員が30名以上など)で、事業譲渡手続きが煩雑になる企業
・許認可や不動産賃貸借契約、その他売上高の多くを占める取引先との契約の引継ぎができないと判断された企業
こういった企業は事業譲渡ではなく株式譲渡を選択した方が良いでしょう。
事業譲渡の場合、会社は残し事業だけを手放すことができるため、不採算事業をなかなか立て直せない、メイン事業だけに注力していきたい、事業を現金化させて経営資金を得たい時に向いています。
株式譲渡では経営者を引退するケースが多いですが、まだ引退しない場合は事業譲渡も有効です。
事業を手放すというとあまり良いイメージはないかもしれませんが、実際には採算が取れない事業を手放せるため、会社にとってメリットとなります。
会社経営で問題が発生していなくても、事業譲渡で得た利益を活用しメインの事業、もしくは新しく立ち上げる事業への投資にもつながるでしょう。
例えば
・複数の事業をおこなっていり、売却対象の事業が不採算である企業
・経営戦略上、本業に専念する必要がある企業
・買手企業から簿外債務のリスクを懸念されている企業
・譲渡代金を法人で得た方が税務上、明らかにメリットがある企業
・事業譲渡した対価で、新たな別事業を行おうと考えている企業
こういった企業は株式譲渡ではなく事業譲渡を選択した方が良いでしょう。
株式譲渡と事業譲渡には様々な違いがあり、手続きの内容やM&A成立までの時間と手間なども異なることをご紹介してきました。
株式譲渡と事業譲渡ではメリットデメリットも大きく違ってくるため、それぞれの特徴を改めて理解した上で、どの方法を取った方が会社にとって最善なのか見極めるようにしましょう。
特に、判断する時のポイントとして、
・譲渡範囲(会社ごとなのか一部事業だけなのか)
・税金の支払い額
・事業譲渡の場合は従業員から雇用転移の同意を得られるのか
・株式譲渡の場合は簿外債務や負債の状況はどうなっているか
これらの項目は必ず押さえておくことが大切です。
現状と合わせて株式譲渡と事業譲渡のどちらが良いのか、検討してみてください。
もし、自身の判断ではなかなか決められないという場合は、M&Aを手掛ける専門家へ相談しましょう。
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