M&A
2019/03/19
M&Aは買手企業にとっては、事業や売上高の拡大、粗利の改善(外注を内製化する)などの目的で行われることが多いです。
一方、売手企業にとっては、後継者の不在、他の事業への選択と集中、経営の行き詰まりなどの理由で売却を選択します。
今回取り上げるのは「経営の行き詰まりを打開する方法としてのM&A」についてです。
一般的にそのような企業のM&Aを「再生型M&A」といいます。
様々な再生型M&Aがある中で、今回は法的手続きを利用した「プレパッケージ型のM&A」についてお伝えさせて頂きます。
目次
まずは、「法的整理」について少しご説明させて頂きます。
「法的整理」とは、裁判所の関与のもと手続きが行われるものを総じて「法的整理」といいます。
よく勘違いされるのが、「私的整理」というものがあります。
「私的整理」は裁判所の関与がない、つまり債権者(金融機関など)による債権放棄などによる整理が「私的整理」です。
法人が選択できる「法的整理」は5つあります。
それは「倒産」「破産」「特別清算」「民事再生法」「会社更生法」です。
プレパッケージ型のM&Aでは民事再生法を利用します。
中小企業などが経営状態が悪化し、倒産か法的整理に入って再興を目指すかといった状況に迫られた場合、通常はどうにか業績の改善を図り再生したいと考えるものです。
これまで歴史を積み重ねてきた会社の歴史と育ててきた事業、多くの取引先や顧客、従業員の雇用なども守らなくてはなりません。
そこで、法的整理の手段を選び、裁判所に再生案を提出するわけですが、スムーズに承認を受けて再生へとこぎつけるための手段として選ばれている手法の1つにプレパッケージ型のM&Aがあります。
これは、法的整理の申し立て前にスポンサーとなってくれる企業を見つけ、その企業との間でM&Aに関する契約を締結するものです。
なぜ、このような手段がとられるのでしょうか。
それは法的整理が公になると、その企業の信用が大きく失墜し、企業価値が下がってしまうためです。
顧客離れや取引先離れを起こすことも多く、せっかく再生が認可されても、事業のめどが立たなくなることも少なくありません。
そこで、法的整理の事実が公になる申し立て前にスポンサーを探して、契約まで取り付けておきます。
そして、裁判所への法的整理の開始申し立てと同時に、スポンサーの存在を明らかにすることで、企業の信頼低下や事業価値の劣化を最小限に食い止められるという手法です。
企業の経営状態が悪化した際に倒産や廃業を選ばず、企業再生の道を選ぶ場合、その手法としては法的整理や会社売却などの方法が考えられます。
いずれにしても、再生を行う前の段階でサポート役を担ってくれる企業が見つかったり、事業の譲渡先が決まったりしていれば、先行きの見通しも立ち、再生の可能性が非常に高くなります。
スポンサーからの支援表明やDIPファイナンスを受けることで、信用の低下を最小限に抑えるとともに、スポンサーが付いたことで、かえって期待が高まる場合もあります。
これまでは興味も示さなかった企業などが取引や提携などに名乗りを上げてくるなど、従来より信用が高まることもあり、再建への道筋が立ちやすくなるのです。
再生を目指す企業にとって、スポンサーが付くことは大きな支援となり、倒産のリスクを回避して再生を目指すための大きなメリットになることは理解しやすいです。
プレパッケージ型のM&Aを行うことはスポンサー企業にとってもメリットがあるのです。
わざわざ経営が悪化した企業を助けて何の役に立つのだろう、ボランティアみたいなものかと思う経営者もいるかもしれません。
一方で、スポンサーになるということは、そもそも何らかのメリットを感じて手を差し伸べたのだろうとピンと来る方もいることでしょう。
実際のところ、このメリットを得るためにプレパッケージの契約に至るまでには、複数の企業がスポンサーになりたいと名乗りを上げ、競争入札が行われることもあるほどスポンサー企業側にとってもメリットがあるのです。
それでは、次に再生企業のメリット、スポンサー企業のメリットについて、それぞれ見ていきましょう。
法的な整理の手続きに入れば、ニュースなどでも企業名が報道されるなど、世間に与えるマイナスイメージが大きく、事業を再生したいと思っていても、実際には事業にさらなるダメージを与えてしまうのが現実です。
販売先や仕入れ先が手を引いてしまう、従業員が動揺したり、優秀な人材が流出するなどの悪影響が生じたり、再生へ向けたの事業基盤が大きく損なわれかねません。
そこで、スポンサーを見つけて、それを公表することで販売先や仕入れ先離れを抑え、従業員にも安心を与えて事業継続ができる状態をキープできます。
民事再生手続きにおいても、スポンサーの存在が再建計画に織り込まれていることで、債権者(取引先や金融機関のことを指します)の合意を得られやすいのもメリットです。
また、スポンサーの意向でDIPファイナスが実現できることも少なくありません。
DIPファイナスとは日本でよく見られる手法で、再生手続きが開始された後も経営は引き続き旧経営陣に任せ、資金の支援だけを行う方法です。
経営陣の入れ替えが必要なケースもある一方、中小企業の場合には経営者の信頼で成り立っているところもありますので、取引先や従業員に与える影響が少なく、現状を維持しながら再生しやすくなるメリットがあります。
では、経営状態が悪化している企業をスポンサーとしてM&Aを行って、支援することにどんなメリットがあるのでしょうか。
法的整理を行うことで、財務状態の透明度が高まります。
整理後には整理前に比べて引き継ぐ債務が限りなく減少するので、スポンサー企業側としてM&Aの判断材料が明確になり、投資金額も一般的なM&Aよりも低く抑えることができるなどのメリットがあります。
従業員が再生に向けてモチベーションを高めたり、危機感を感じたりして仕事をしてくれ、取引先や仕入れ先なども気を引き締めて関わりを持ちますので、スポンサー企業としてビジネスがしやすいのもメリットです。
こうした事情もあって、M&Aをしたいと検討している企業の中には、通常の方法ではなく、プレパッケージ型(再生型のM&A)のターゲットを探している企業も多いです。
プレパッケージ型M&Aでは、スポンサー企業から一方的に買収がなされるのではなく、複数のスポンサー候補の中から選定することができます。
再生を目指す企業にとって、契約が不利になりませんので、再生に向けたメリットが大きいのです。
特に民事再生手続きによる場合には、手続きの開始が決定後も以前の経営陣が主導して手続きを進めるのが一般的です。
そのため、スポンサーの入札の実施が求められる場合もありますが、申し立てを行う前段階で準備を整えておくことで、事前に選定していたスポンサーに対し、なるべく早く計画外事業譲渡を実行するという法的整理のスキームを実行しやすいメリットも増えます。
これに対して、会社更生手続きによる法的整理を行った場合には、申し立てを行う前に以前の経営陣が選定したスポンサーを、管財人が認めてくれない可能性も残ります。
客観的な妥当性を確保すべきだと主張し、再び入札の方法でスポンサーの選定を行うこともあり、事前に根回しをしていたスポンサー以外が選定されてしまうリスクもあるのです。
プレパッケージのスポンサー選定が公正妥当だと判断してもらえ、民事再生の申し立て後に再入札を行わずに済むための、スタンダード化した基準があります。
通称「お台場アプローチ」と呼ぶ7つの条件を満たすと、後からスポンサーになりたいと希望する企業が現れ、その企業の条件がいかに優れていても、再入札は実施されないのが一般的です。
第一として、
事前にスポンサーを選定しておかなければ、事業が衰退してしまう状況であること
第二に
実質的に競争が成立できるよう、スポンサーの候補者を集めていること
第三に
入札条件に価額を下落させる不当な条件が入っていないことが必要です。
そして、応札者の中からスポンサーを選定する過程で、不当な処理が行われていないことが第四条件です。
第五として、
契約の内容が再生を希望する会社にとって不当に不利な内容ではないこと
第六として
スポンサーの選定手続きについて、一切の不正がないことの第三者の意見が反映されていること
第七として
スポンサーが誠実に契約を履行し、期待通りの役割を果たしていることが求められます。
再生型M&Aの中でも今回はプレパッケージ型のM&Aについてお伝えさせて頂きました。
実は買手側にも売手側にもメリットがある方法というのはお分かり頂けましたでしょうか?
売手側の経営者としては、法的手続きを取ることに抵抗がある経営者が非常に多いです。
法的手続きをしたら個人は破産をしなければならないのか?
法的手続き=破産と思い込んでしまっているのではないでしょうか?
必ずしも法的手続き=破産ではありません。
企業の状況にもよりますが、経営者個人が破産をしないでプレパッケージ型のM&Aが完結した事例も多くあります。
まずは、自社の状況などを客観的に把握し、取りえる選択肢を確認することをお勧めします。
その第一歩としては自社の企業の価値を知ることが重要です。
自社の企業価値と債務金額のバランスを考え、どういった方法で売却を行うのか検討してみてください。
ご相談は無料です。お気軽にお声かけください。
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