財務戦略
2019/12/27
中小企業でもM&Aが盛んに実施されるようになってきました。
これまでM&Aは上場企業の経営戦略に利用されていましたが、現在は中小企業の経営戦略にも用いられるようになっています。
盛んに実施されている一方で、買手企業が望む売却案件がなかなか見つからないという問題も生じています。
これは、M&A市場の需要が大きい状況にあるためです。
自社に合った売却案件ばかりを求めてしまうと、いつまで経っても売却案件を買収することができません。
しかし、実は売却案件の数が少ないかと言われると、そうでもないのです。
後継者問題や人手不足などの影響から事業承継をせずに第三者へのM&Aを考えている企業は多くあります。
今回は買手企業がM&Aを行う目的から売却案件を見つけるためのヒント、さらに売手企業が買手に選んでもらう際のポイントもご紹介していきますので、買手企業のみならず売手企業の経営者もぜひ参考にしてみてください。
目次
買手企業はM&Aを経営戦略の手段として、重要な位置につけています。
従来はM&Aに対してあまり良い印象を持っていなかった中小企業の経営者も、近年は企業規模の拡大を目指し、M&Aを実施するケースが増えてきています。
経営者は、「現在よりも売上を伸ばせるか」「利益を出せるのか」などを常に考えています。
経営者が投資判断するというのは、会社にとって未来の利益向上に対して投資とも言えるのです。
この観点で見てみると、買手企業がM&Aをする目的は、以下の2点になります。
・売上高の拡大
・利益率の改善
売上高の拡大と利益率の改善をクリアするためには、
・事業規模の拡大
・アウトソーシングしている事業の内製化(利益率の改善)
・人材の確保
・経営の多角化
を取り入れる必要があります。
これらの目的を達成するためにM&Aを積極的に取り組み、売上高の拡大と利益率の改善を目指しているのです。
企業がM&Aに着手するのは、事業規模の拡大、アウトソーシングしている事業の内製化 、人材の確保 、経営の多角化の4つを達成しやすいからです。
企業が売上増加を狙うため、事業規模を拡大する戦略を狙うことは多くあります。
店舗数が増えれば、各地に自社ブランドが展開されるため、世間での知名度も向上するでしょう。
さらに事業規模の拡大は、利益率の改善にも効果的です。
事業規模が拡大すれば、材料などの購入数も増えます。
一般的に材料などを調達する場合、小口注文よりも大口注文の方が割引率も大きくなるため、原価を抑えられます。
例えば、飲食店で食器を注文する場合、1店舗だけよりも100店舗ある方が食器も多く必要となり、同時に食材やテーブル、椅子などの家具も購入する必要が出てきます。
ただし注意点として、事業の拡大は短期間でスムーズに実施しないと利益率の改善は望めません。
時間がかかる分だけ、投入する経営資源も増えて、かえって経営状態を悪くしてしまうでしょう。
>>ペッパーフードサービスの経営戦略は正しかったのか? ペッパーランチ売却事例から飲食業界のM&Aを考える
外注している事業を内製化したい時にも、M&Aは有効です。
アウトソーシングしている事業を自社で賄えば、生産スピードが上がり、商品サービスの安定した供給が図れます。
自社で必要な業務をなるべくかかえることで、依頼主・消費者からの突発的なスケジュールにも対応可能となり、売上増加の機会を逃さずに済むでしょう。
事業の内製化は固定費が増加するため、一見効率が悪いように感じるかもしれませんが、中長期的な視点に立てばコスト削減も期待できます。
外注先が倒産した際のリスクもなく、安定した経営を後押しする戦略です。
人材の確保は、M&Aのメリットです。
人材の確保は、単に従業員が増加し、働き手が増えることに留まりません。
専門性に特化した優秀な人材を獲得できれば、既存ビジネスと買収先のビジネスを組み合わせて、新しいサービスや商品を展開できることもあります。
さらに、専門性の高い人材であれば、自社が抱えている課題も解決できることもあるでしょう。
マーケティングに課題のある企業であれば、集客や既存顧客との関係性づくりなどにノウハウを持つ人材を迎えることで、売上アップが期待できます。
また、M&Aによって経営者の後継者不足も解消されます。
経営者が事業の継続が困難な状況になれば、廃業するか他社に事業を売却するかを選択することになるでしょう。
次の経営者を獲得するため、M&Aを仕掛ける企業も多くあります。
多様なニーズが混在する現代では、企業に経営の多角化が求められています。
経営の多角化とは、様々な分野に企業が分野を広げていく経営戦略です。
多角化にあたっては、主力事業をメインとしてサブ的に新規事業を行う手法や、主力事業を持たずに関連のある事業を行う手法などいくつか方法があります。
多角化で得られるメリットとしては、収益の拡大が挙げられます。
メイン事業で成長が見込めない場合、関連する事業を手掛けるなど多角化に切り替えることで、自社の技術や資源を別分野でも活用できるでしょう。
複数の分野に精通することで、持て余していた人材や資源を再活用できる上、事業間での働きが促進されることもあります。
また多角化経営は、一つの事業で失敗した際のリスク分散ができる点もメリットです。
株式譲渡とは、株主が持っている対象会社の株式を金銭等と引き換えに、他社へ譲渡する方法です。
中小企業で多く利用される手法であり、売り手と買い手の契約合意後、買い手は譲渡代金を支払うことで株式を取得できます。
事業譲渡とは、企業で行っている事業の一部だけを売却する手法です。
対象となる事業には、モノや権利に加えて、ヒトも含まれます。
事業譲渡は、買い手であれば対象企業の特定事業のみを取得したいときに選択されます。
買収対象となる企業によっては、一つの事業のみが魅力的であって、会社全体は買収したくないこともあります。
会社を丸ごと買収すると会社の負債を背負うことになり、買収金額も多額になるでしょう。
事業譲渡で買い手は、特定の事業のみを継承できるため、経営リスクを小さくできます。
資本提携とはM&Aの一つで、出資を伴う業務提携のことです。
ニュースでもよく耳にする業務提携とは、独立性を保った企業同士が共同で、商品を開発したり、人材支援をしたりする体制です。
そこに出資が加わり、対象企業の一定の株式を買収した提携が、資本提携です。
業務提携よりも深い関係を築けるため、有望な中小企業であれば資本提携を申し込まれるケースも見られます。
資本提携では、経営への参画権や財務面への介入などが可能です。
売り手と協議して、機密情報の開示や出資比率などを明確にしておく必要があります。
現在、労働人口は徐々に減少しており、経済規模も縮小傾向にあると言われています。
そんな日本で企業規模を拡大し、利益を追求することがこれからの企業にあるべき姿となっていくでしょう。
その一方で経済環境は大きく、そして素早く変化しており、その変化に人材も追い付いていないことが経営課題となっています。
今後、生き残っていく上で人材を確保し企業規模を拡大していくためにも、M&Aは重要な戦略となってくるのです。
M&A業界では従来であれば買手企業の方が強い立場にありました。
これは、買手企業が投資を決断しないとM&Aは成約しないことや、売手企業を救済する側面も含め、最終的な決裁権限は買手企業の方にあったからです。
しかし、最近は多くの企業が企業成長を目指しM&Aに取り組んでいる結果、売却案件が不足してきています。
厳密に言えば、売却案件自体はあるのに優良な売却案件が減少しています。
また、こうした動きの中、多くの中小企業は小規模のM&A、いわゆる「スモールM&A」にも取り組むようになってきました。
譲渡代金1億未満の企業も、買収の対象として考えているのです。
そういった市場環境の中で、より優良な売却案件を買収したいという買手企業のニーズは高まっています。
こういった市場環境の中で、買手企業は具体的にどうやって売却案件を探しているのでしょうか?
従来M&Aでは、仲介会社を通すなど敷居の高さがありましたが、M&Aマッチングサイトは手軽に売却案件を探せるツールです。
オンライン上で売却先を探すことができ、売却を検討している企業に自らアプローチもできます。
M&Aマッチングサイトは複数あり、各サイトによって利用料金やユーザー数が異なります。
専門家によるサポートなどオプションも違うため、企業の予算や費用対効果を考えながら選ぶようにしましょう。
特に買手目線でマッチングサイトを利用する際は、案件数に注目してください。
案件数とは売り手が登録している、売りに出ている案件数です。
多くの案件があるほど、魅力的な企業に出会える可能性は高まります。
プル型のアプローチとは買手企業が売却案件の紹介を待つ方法です。
買い手企業としては認知度を高める戦略は展開しますが、あくまで売り手が自発的に売却をもちかけてくるのを待ちます。
具体的に買い手は、M&Aアドバイザリー会社や仲介会社からの紹介を待つことになります。
認知度を高めるという意味では、テレビや雑誌の通販サイトとも似ていますが、これらは一方通行の情報発信であり、プル型アプローチとは呼べません。
売り手のタイミングを待って、買収に乗り出す手法です。
この手法のメリットは、買収実績ができればM&Aアドバイザリー会社や仲介会社から多くの案件紹介が受けられる点です。
一方、デメリットは、実績のない買手企業はなかなか案件紹介が受けれないという点です。
プッシュ型アプローチは、プル型と真逆の買収スタイルです。
買手企業が売り手に買収を提案し、積極的に行動することで成約へとつなげていきます。
買い手は自ら提案を行うためM&A仲介会社を通さないこともありますが、M&Aアドバイザリー会社や仲介会社を利用することもあります。
プッシュ型は他企業との競争を避けられるなどのメリットがありますが、企業自ら売り手と交渉する場合、M&Aの知識が必要となるため注意が必要です。
この手法のメリットはM&A市場にまだ出て生きていない潜在的な売却案件が発掘できる点です。
一方、デメリットは、時間と費用がかかるという点です。
プル型で案件紹介がなかなか受けれない企業にとっては、プッシュ型のアプローチも検討してみるとよいでしょう。
実際にどのような売却案件が、買手企業にとってリスクをもたらしてしまうのでしょうか?
例えば、下記のような企業があったとします。
・売上規模・・・2億円以下
・企業の組織体制・・・組織体制は整っておらず、経営者がほぼ経営の全てを管理している
・財務状況・・・決して盤石とは言えず、現預金は月商の1ヶ月未満
このような売却案件を買収した場合のリスクは、経営の安定・安全性がない点、そして経営者のみに業績が依存している点が挙げられます。
また、経営者に依存していると取引先は会社というより個人とのつながりが強い点もリスクとして挙げられるでしょう。
こうした企業は買収後に引継ぎをする際、苦労しやすいです。
例えば売却後に経営者も引退した場合、取引先との強いつながりが失われてしまうことで売上低下につながる恐れも考えられるでしょう。
さらに、買収した後、急激な組織変更等で人材の流出が発生してしまうかもしれません。
こうなってしまっては、M&Aのメリットである人材の獲得が失われ、失敗に終わってしまう可能性があるのです。
このようなリスクは小規模の案件の方が高い確率で起きやすくなります。
中小企業は組織化が十分でなく、会社の経営も「人」に依存しているためです。
では、買収後にリスクがある小規模の企業は、M&Aの買収対象として適していないのでしょうか?
結論から言えば、そんなことはありません。
基本的に買手企業がM&Aを実施するのは、売上高の拡大と利益率の改善を目的としています。
さらに2つの目的を達成するためにも、
・事業規模の拡大
・アウトソーシングしている事業の内製化
・人材の確保
・経営の多角化
を目指しており、自社では難しい部分を買収によって補おうとしています。
そのため、買手企業が求めているものに合致すれば、評価されて買収につながるのです。
この時重要になってくるのが、
ⅰ)事業性の評価
ⅱ)シナジー効果の見極め
の2点になります。
ⅰ)事業性の評価
小規模の企業やあまり業績が良くない企業を買収しようと考えた場合、重要となってくるのが売手企業の事業性を評価できるかです。
事業性の評価は損益計算書の内容から判断していきます。
例えば収益構造がどうなっているのか、商品力はあるのか、どれほどの取引先を持っているのか、市場環境はどうなのかなど、損益に影響を与えるものを一つずつ分析していき、将来的に成長できるか・利益の改善可能性はあるのかを把握していきます。
損益の評価ができていれば、自社の経営資源を活用してシナジー効果を生み出すこともできるでしょう。
ⅱ)シナジー効果の見極め
事業性の評価ができたら、次に自社とシナジー効果があるか見極めていきます。
特に重視したい点は、自社の経営資源の把握です。
今後の経営戦略において、自社に不足しているもの(分野・人材・技術など)を把握し、補える企業の買収が効率的にシナジー効果を得られると言えます。
シナジー効果を見極めるには、改めて自社の経営資源が何か再認識しておきましょう。
対象企業の事業性を分析し、自社の経営資源を合わせて企業として成長できる、利益率が改善される可能性が高いのであれば、買収しても問題はないでしょう。
また、このスキームを重視して買収できる場合、小規模案件なら初期投資にかかるコストを抑え、なおかつ自社の経営戦略において有効と判断できるM&Aが実施できます。
企業の売上高を伸ばし、利益率を改善させる方法としてM&Aは有効な戦略です。
M&Aで成功するか否かは、対象企業の経営状況や将来性、シナジー効果などを見極められるかどうかで決まります。
ここではM&Aの成功事例と失敗事例についてご紹介します。
▶成功事例(日本電産)
日本電産は、独自の発想と技術力を武器に世界的な総合モーターメーカーへと駆け上がった企業です。
1973年7月に創業し、40年余りで一兆円企業へと成長しました。
その圧倒的な成長スピードを支えてきたのが、企業当初から繰り返してきたM&Aです。
国内外を問わず行ってきた企業買収は、1984年2月にアメリカ・トリン社の軸流ファン部門を買収したことから始まり、2019年11月時点で66社の買収に成功しています。
「回るもの、動くもの」に特化したM&Aによって、技術や販売ルート確保に要する時間を短縮できることが、業界スピード成長の秘訣です。
「時間を買う」という概念の元、能動的な企業買収でシナジー効果を生んでいます。
▶失敗事例(ライザップ)
トレーニングジム『ライザップ』で有名なライザップグループは、健康食品、化粧品など多くの事業分野を手掛けています。
ライザップもまた積極的なM&Aにより、企業を急成長させてきた企業ですが、失敗も経験しています。
短期間で多数の企業を買収し、最大85社にまで到達したことで経営が圧迫されたのです。
2017年2月に買収したジーンズメイトや2017年6月に買収した堀田丸正などは、業績も好調へと向かったため成功と言えますが、2018年3月に買収したワンダーコーポレーションは、グループ経営に悪影響を与えました。
ワンダーコーポレーションは新星堂などを運営する企業ですが、CDの売上が伸び悩み、販売数が減少したことが赤字へとつながった原因です。
その他、フリーペーパーを発行するサンケイリビング新聞社、婦人服を手掛ける馬里邑(まりむら)も買収しましたが、期待するシナジー効果は挙げられていません。
現在では、住宅販売・リフォーム事業を行うタツミプランニングを売却するなど、主要な子会社の数を減らすことで、経営の立て直しを図っています。
買手企業がM&Aを行うのは、
・事業規模の拡大
・アウトソーシングしている事業の内製化
・人材の確保
・経営の多角化
の4つになります。
また、買手企業は積極的にM&Aを行っていく中で、投資の判断に迷ってしまう案件の特徴は、
・売上規模・・・2億円以下
・企業の組織体制・・・組織体制は整っておらず、経営者がほぼ経営の全てを管理している
・財務状況・・・決して盤石とは言えず、現預金は月商の1ヶ月未満
となり、このような企業は組織化ができておらず、経営が「人」に依存していることでM&Aにより業績が大きく変動するリスクを持っています。
現在売却案件が少ないと言われているM&A市場で、視野を広げて選択肢を増やしていくためにも、まずは売手企業の規模や目先の業績にはとらわれず、自社の弱みを補える可能性があるかどうかという点でM&Aを検討してみてはいかがでしょうか?
ご相談は無料です。お気軽にお声かけください。
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