企業事例
2020/08/05
M&Aは海外だけでなく、日本国内でも大小さまざまな規模で行われています。
M&Aに成功すればシェアが拡大できたり、売上高が向上したりと、色んなシナジー効果を受けられるでしょう。
しかし、必ずしも成功するとは限りません。
多額の費用を掛けてM&Aを行うわけですから、なるべく失敗したくないと考えるものです。
そこで今回は、M&Aの失敗例をいくつかご紹介し、そこから失敗しないためのポイントを解説していきます。
なぜ失敗に至ったのか、どうすれば失敗せずに済むのかを分かりやすくご紹介していくので、M&Aを行う前にぜひご参考ください。
目次
M&Aにおいて成功の基準は、「売上高がアップした」「シェアを拡大できた」などが挙げられます。
逆に、失敗してしまうと「売上ダウン」「シェアの拡大を狙ったがうまくいかなかった」などが挙げられ、最悪の場合巨額の損失や破産するケースも少なからずあります。
このようにM&Aに失敗しないためには、どのような対策を講じれば良いのでしょうか?
ここからは5つの失敗事例を参考に、失敗から学べることを解説します。
アメリカに本社を置くマイクロソフト社は、Windowsの開発・販売を行っている大手IT企業です。
そんなマイクロソフトでもM&Aに失敗したと言える事例があります。
2013年、マイクロソフトはフィンランドにある世界最大の携帯電話メーカー・ノキアからデバイス事業を買収しました。
買収額は54億4200万ドル、日本円にして約5300億円もの価格となります。
世界最大の携帯電話メーカーであるノキアは、2013年時点で携帯端末市場では1位のサムスンに続き、2位を確立しており、約2億5000台も出荷していました。
元々、マイクロソフトとノキアは2011年に提携関係を結んでおり、ノキアから発売されるスマートフォンOSは全てWindows Phoneが採用されていたのですが、当時スマートフォン事業で大きく成長していたGoogleやappleなどにシェアで追いつこうと考え、端末メーカーのノキアをOSメーカーであるマイクロソフトが買収したのだと考えられます。
この買収がきっかけとなりマイクロソフトは世界2位の端末メーカーになり、これからWindows Phoneのシェア拡大を図る予定だったのですが、残念ながらシェア拡大にはつながりませんでした。
結局Windows10を発表後、Windows Phone自体も終了してしまったので、M&Aは失敗に終わったと言えるでしょう。
M&Aが失敗した原因はいくつかありますが、そもそもスマホの販売事業が低迷した状況にあったこと、そして2015年にCEOが変わり、元ノキア従業員を大量にリストラさせたことが大きな影響を与えたと考えられます。
また、ノキアの端末部門買収で計上していた資産も一括で償却し、76億ドル(約9200億円)にもなりました。
結局、マイクロソフトは携帯端末事業から撤退しています。
マイクロソフトの失敗事例は途中で方針を大きく転換し、シェア拡大に向けて焦ってしまったことが要因です。
方針転換が悪いわけではないのですが、M&A後に方針転換をすると従業員も混乱してしまいます。
買収する企業は目的や方針を明確に固めてからM&Aに取り掛かった方が良いでしょう。
特に買収後の従業人への対応は重要です。
企業を買収したといっても、その売上や実績を作ってきたのは現場で働く社員です。
M&Aによる働く環境の変化は従業員にとって退職の大きなきっかけとなります。
その点も踏まえて、M&Aにおける従業員への対応は慎重におこないましょう。
飲料メーカーとして国内でもトップクラスのシェアを誇るキリンは、2011年に国内市場の縮小によって売上高が減少してしまいました。
この事態を打開すべく国外に市場を置こうと考えたキリンは、ブラジルのビール・清涼飲料水メーカーであるスキンカリオールの買収を行います。
ブラジルに目を付けたのは、アメリカなどの既に市場が整いシェアが確立されているところよりも、新興国であるブラジルに進出すればキリンのシェアを確立できると考えていたのではないかと予想できます。
ただし、スキンカリオールの買収後に景気低迷が続いてしまい、シェアどころの話ではなくなってしまいました。
結果的に2015年になると減損損失で1100億円を計上し、2017年にはオランダのハイネケングループへ売却しています。
キリンの失敗要因は、やはり世界の市場調査やトレンドの把握が甘かった点が挙げられます。
これは特に海外の会社を買収しようと考えた際に起こり得るものですが、世界の業界や市場を精査するためには多くの時間をかける必要があります。
また、日本に比べて経済的にも安定していない地域もあり、カントリーリスクも考慮した上でM&Aを実施しなくてはなりません。
海外進出を焦ってしまった結果、市場調査が十分でなかったために失敗となったため、成功を目指すためにもM&A前に市場調査を十分に行っておくことが大切です。
海外企業のM&Aは非常に難しいです。
ただでさえ、M&Aは失敗するリスクが大きい上に、カントリーリスクや相手方の異文化理解などハードルはより一層上がります。
キリンほどの大企業ですから、市場調査やマーケティングについてはかなりの規模で行ったと想定できます。
そういった企業でさえ、市場環境を見誤り、M&Aで失敗してしまいます。
それ程、M&Aの成功は難易度が高いと言えるでしょう。
キリンのM&Aが失敗したと言えるかもしれません。一方で出口の戦略を事前に準備していたことはリスク回避という面では非常に評価できます。
M&Aの場合、万が一失敗したとしても出口戦略として最低限の投資額の回収が見込める(次の買手がいる企業価値がある会社)を買収することが重要です。
そういった観点もM&Aを行う際に持つことが重要です。
M&A案件が成立する前は問題なかった業績が、成立後に大きく悪化したケースも存在します。
例えば、東芝のM&A事例です。
大手電機メーカーである東芝は、2006年にアメリカに本社を置く原子力メーカー・ウェスチングハウスを買収しました。
当時、成長が見込まれていた原子力市場は注目株であり、東芝は買収することで原子力事業の拡大によるシェア拡大・売上増加を目的にしていました。
しかし、2011年に発生した東日本大震災によって原発に対する風当たりが強くなり、当初予定していた事業計画よりも売上が大きく下がってしまいます。
さらに、ウェスチングハウス関連で簿外債務が発覚し、その額はおよそ6253億円、全体で見ると7125億円もの損失が発覚したのです。
これにより東芝は多額の損失を被ってしまうことになりました。
今回の事例で問題だったのは、買収先の収益化に予期せぬ事態が発生し、思うように売上が伸びなかったこと、そして簿外債務に気付けなかったことです。
東日本大震災の発生を予期することはできないため、この問題に関しては致し方ないと言えますが、簿外債務に関してはデューデリジェンスを十分に行っていれば回避できたものかもしれません。
ただし、いくらとデューデリジェンスをやっていても見逃されてしまう恐れはあります。
簿外債務を見抜くためにも、現地調査や定期的に会社の経理状況を把握することが重要だと言えるでしょう。
帳簿上に見えない隠れたリスクはM&Aにはつきものです。
リスクの無い投資はありません。
しかし、どれだけ買収前にリスクを回避できるのかが重要です。
そのためにデューデリジェンスがあります。
大手企業の東芝でさえ、通常の中小企業よりも詳細にデューデリジェンスはおこなったはずです。
その中でも簿外債務が発生するということがM&Aの難しさを表しています。
中小企業のM&Aの場合、法務デューデリジェンスなど詳細のデューデリジェンスは行わない傾向があります。
費用対効果を考えての判断かもしれません。
今後の簿外債務のリスクを考慮すると一定規模以上の企業買収ではデューデリジェンスは必ず行った方がよいです。
デューデリジェンスによって簿外債務やリスクを無くすことはできません。
しかしながら、デューデリジェンスを行い、万が一、簿外債務が発生した際の責任の所在を明確にし、その損害額を契約時に決めることで最低限のリスク回避は可能です。
東芝と同じ電機メーカーの日立も、海外の会社に対してM&Aを実施し、失敗に陥った事例があります。
日立が買収したのは、アメリカにあるIBM社のハードディスク事業です。
IBM社はコンピュータ関連製品やサービスを提供している会社で、日本にもIBMの支社が存在します。
そんなIBM社からハードディスク事業を買収することで、買い手側は海外の市場で勝つための布石になるとされていました。
特に、日立はハードディスク事業においてIBMよりも売上も市場シェアも低かったため、かなり攻めたM&Aだったと言えます。
しかし、IBM社のハードディスク事業を買収する前後にハードディスク自体の価格破壊が進んでしまい、毎年100億円クラスの赤字を出してしまいました。
最終的にアメリカのウェスタン・デジタル社へ現金39億ドルと9億ドル相当のWD(ウェスタン・デジタル)株式によって売却しています。
日立がM&Aに失敗した原因は、これから注力していこうと予定していた事業の経済が落ち込んでしまった点が挙げられます。
現在、ハードディスクの出荷台数は年々減少傾向にあり、逆にSSDというハードディスクと似た記憶装置が主流となってきました。
こうした背景からせっかく買収したのに、売上の落ち込みにつながってしまったのです。
M&Aを成立させる前に事業計画を立てますが、場合によっては見通しが甘くなってしまい、目的が達成できない可能性もあります。
特に日立の場合、東芝の失敗事例とは異なり、事前に予測することもできたのではないかと考えられます。
見通しが甘いと売り手と買い手の関係性が悪化する可能性もあるでしょう。
日立は売却前に事業の黒字化に成功しているものの、黒字化に至るまでに多額の経費が掛かっているため、結果的に損失を被っています。
あらかじめ綿密な事業計画を立て、万全に準備を整えてからM&Aの実行に移りましょう。
経済環境の変化を事前に把握することは非常に困難です。
東日本大震災やコロナ禍を事前に予測し、企業運営を行っていた企業など皆無に等しいです。
一方で、そういった災害による経済環境の変化などが起こっても業績不振にならない企業もあります。
経済環境などの変化に強い企業です。
これまでに培ってきた企業文化なのかもしれませんが、変化を受け入れ、その中でどう対応していくのか?
こういった観点は経営者にとって重要です。
現在の環境が永遠に続くことはなく、変化してもその変化に対応できる企業としての強さを身に着けておく必要があるのです。
そういった観点もM&Aでは必要な要素かもしれません。
メガネレンズやコンタクトレンズの製造など、光学レンズの大手企業であるHOYAは、2007年にペンタックスという企業を1000億円で買収したのですが、買収するまでに二転三転と事態が変わっていったのです。
当初はHOYAとペンタックスが合併し、経営統合を図る形で合意していたのですが、ペンタックスが合併比率に対して難色を示し、結局合併を撤回すると宣言した上で、当時の社長を交代させました。
これにより、一時は合併が白紙になるかと思われましたが、結果的に合併を白紙にした方針は撤回され、TOBの受け入れを決定し問題解決に至ったのです。
しかし、経営統合の件で取締役会が分裂しており、十分な機能を果たせずにいました。
しかもTOB成立前の株主総会で社長以下全取締役が総退陣する運びとなったのです。
吸収合併後は業績も伸び悩み、約304億円の減損損失を計上し、2011年になるとペンタックスのデジタルカメラ事業をリコーへ売却しています。
今回の失敗原因は買い手であるHOYA側ではなく、売り手側のペンタックスに問題がありました。
取締役員が分裂し、意見の二転三転を繰り返したことで従業員の存在を蔑ろにしてしまったことが問題だったと言えます。
今回の失敗事例で、成功させるには買い手側だけでなく売り手側でも十分な準備が必要であるということが分かります。
買収後の売手企業の統治もM&Aにおける失敗原因としてよく起こる問題です。
どちらに問題があったかはさておき、買手側とすれば売手側をコントロールする準備と事前の把握ができていなかったと言えます。
これは敵対的な買収、売手企業の理解を得ていない状況でのTOBが大きな原因と言えます。
この問題は株式公開している企業に限った話ではなく、中小企業においても起こる問題です。
オーナー(経営者)は株式を売却して引退した後、残された役員や従業員が買手企業とそりが合わず、多くの従業員が退職し、M&Aが失敗したという事例も多くあります。
もちろん全ての従業員が納得することはできないまでも、キーマンとなる人材については、事前に十分な説明をおこない、納得した上でM&Aを実行する必要があると言えます。
売手企業の経営者には売却したら終わりでなく、売却後も丁寧に対応していくことが求められます。
M&Aの成功は買手企業の力だけではなく、売却後の売手企業の協力も必要なのです。
M&Aは成功すると大きな恩恵を受けられますが、場合によっては失敗する恐れもあるので注意が必要です。
しかも、失敗する要因はどこからやってくるか分かりません。
事前にトラブル回避するための対策を講じられるものもあれば、自然災害など予期せぬ出来事によって悪影響を受けてしまう場合もあるでしょう。
予測できないものに関しては仕方ないものの、M&Aの成功を目指すには事前の万全な準備が必要であることが分かります。
また、M&Aを成功させるためにはプロのアドバイザーへ相談し、第三者から客観的な意見を求めることも重要です。
これからM&Aを行おうと検討されている経営者の方は、ぜひアドバイザーへ相談してみてください。
ご相談は無料です。お気軽にお声かけください。
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