企業事例
2020/12/07
コロワイドによる大戸屋ホールディングスへの敵対的買収が話題になりました。2019年10月に大戸屋創業家のほぼ全株を約30億円で取得し、コロワイドは大戸屋株の約19%を保有する筆頭株主です。
しかし、筆頭株主であるコロワイドの改善策を大戸屋が聞き入れないので、敵対的なTOB(株式公開買い付け)に発展しました。
その結果、9月にTOBは成立し、大戸屋はコロワイドの傘下に入ることになりました。
>>敵対的買収とは?友好的買収との違いやメリットとデメリットを徹底解説
目次
TOB価格は、直近の株価(7月8日の終値2,113円)に45%上乗せした3,081円。7月10日から8月25日までを募集期間としました。コロワイドは半数以上の株を取得し、経営権を取得し、経営改善を図っていきたいと考えています。
そもそもTOBとはどういったものなのでしょうか?
TOBとは「株式公開買い付け(Take Over Bid)」の略で、あらかじめ株数や期間、価格を公開したうえで、市場外で株式を買い取る行為です。主に経営の実権を握ったり、上場会社を買収したりするために実施されます。TOBを実施すると、以下が行えるようになります。
発行済み株式数の3分の1(33%)超の取得で、重大な決定事項を拒否できる
発行済み株式数の2分の1(50%)超の取得で、社長など役員の選任ができる
発行済み株式数の3分の2(66%)超の取得で、会社を合併・解散できる
TOBには、「友好的TOB」と「敵対的TOB」があります。友好的TOBとは、相手企業の経営陣から同意を得たうえでTOBを行うことです。一方の敵対的TOBとは、相手企業の経営陣や親会社の同意を得ずに、相手企業の株を公開買い付けすることです。
通常、TOBの多くは相手企業の親会社や経営陣と話し合いをしてから公開買付けを行います。しかし親会社や経営陣の同意が得られなかったり、話し合いができなかったりする場合は、敵対的TOBに発展することがあるのです。
投資家はTOBに応募すれば通常よりも高い価格で売却できるので、買手企業はTOBでの対象企業株式を買い集めます。ですからTOBが発表されると、対象企業の株価はTOB価格に向けて上昇するのです。
大戸屋の経営権を握る争いは、2015年に創業者の三森久実氏が57歳で亡くなったことで始まりました。久実氏が肺がんであることがわかると、長男の智仁氏を常務にしましたが、相続対策らしいことは何もしていなかったのです。
しかし、智仁氏ら創業一族を経営陣に加えたことが失敗だったという見方もあります。コロワイドに株式を売却する前には、親戚でもある窪田社長と激しく対立。「お家騒動」と騒がれていました。
創業者の妻は息子が事業を承継するのが当たり前と考えることが多く、今回も妻の三枝子市が長男に継がせることにこだわり、窪田社長との間で骨肉の争いを行ったと報じられています。
▶45%のプレミアムをつけたコロワイド
コロワイドは大戸屋の経営陣と協議の機会を得られなかったので、4月末からTOBの検討を始めていました。コロワイドの買い付け価格は一株3,081円。7月8日の終値2,113円に45%ものプレミアムをつけています。
7月10日から8月25日までの間に最大32.16%の株式を追加で取得を計画しました。すでに保有している19.16%と合わせて過半数の51.32%を握ることで、大戸屋を子会社化する計画なのです。そして経営陣の入れ替えを要求し、コロワイド流で大戸屋の立て直しを図る予定です。
▶現在の経営陣は強く反発
しかし、大戸屋の窪田健一社長をはじめ、現在の経営陣はコロワイドによるTOBに強く反発し、7月20日には取締役の全会一致でTOBに反対する意見を決議しました。大戸屋側は、コロワイドとの経営方針の違いを訴えています。
コロワイドは大戸屋株をすでに19%所有しているので、TOBが成立する可能性は高いと見られています。TOBが成立した場合、コロワイドは窪田健一社長ら現経営陣全員の解任を視野に入れています。そして自社陣営の取締役を送り込み、外部で調達した食材を店内で仕上げる「セントラルキッチン」を利用してコスト削減を進める方針です。
しかし、これまで敵対的TOBで過半数を集めたケースはほとんどありません。大戸屋の個人株主の感情に訴える作戦がうまくいった場合、敵対的買収を防げる可能性もまだ残っているのです。
しかも、TOBを仕掛けるコロワイドにも余裕があるわけではありません。コロワイドは、回転寿司の「かっぱ寿司」、焼肉の「牛角」、居酒屋「甘太郎」など多彩なブランドを持っていますが、2020年3月期の連結決算では64億円の最終損失を計上しており、過去最大の赤字となっているからです。
コロワイドがM&Aで伸びていたのは5年ほど前までの話で、現在は停滞しています。2014年にかっぱ寿司を展開しているカッパクリエイトを買収しましたが、立て直しに苦戦しました。スシロー、くら寿司、はま寿司など回転寿司3強とは差が開く一方です。
コロワイドの弱点は、M&Aに頼りすぎた結果、自らのブランドを生み出す力を失っていることです。外食首位のゼンショーホールディングスの第1ブランドは「すき家」、第2ブランドは「はま寿司」で、いずれも自社開発です。
コロワイドが改革に取り組んで成功しても、大戸屋のブランド力を高める結果に結びつくかどうかわからないのです。大戸屋はコロナ後を見据えて冷凍食品を開発し、小売りを開拓して攻勢にでようと考えていた矢先でした。大戸屋に逆転策があるのか、もしくはホワイトナイトを探しているのかわかりませんが、今回のTOBの行方が注目されています。
欧州では上場企業になっても創業家が大株主として経営に関与する例が多いのですが、日本では上場後に少数株主となる場合が多く、権限は弱くなります。しかし日本企業は社長に権限が集中しているので、社長の座を握れるかどうかが最大の焦点になります。
コロワイドがTOBで51%超の株式取得を狙っているのは、社長のポストを握るためです。 コロワイドは大戸屋の株式の過半数を握れば、会社を思い通りにできると考えているのかもしれません。しかしコロワイドが51%の株式を取得したとしても、49%の少数株主の声を無視することはできないでしょう。
社外取締役などによる委員会を立ち上げ、少数株主にとっても利益のあるような人事を行う必要があるのです。大戸屋の株主は、大戸屋のファンを核とする個人株主が65%を占めています。
買収が成功したとしても、コロワイドは大戸屋の抵抗に手を焼くかもしれません。大戸屋の従業員やフランチャイズは、それぞれ「意見表明」を発表しています。「コロワイドの買収が成功したら辞職も辞さない覚悟」、「フランチャイズ加盟店の離脱が起こるなど、大戸屋の企業価値が大きく損なわれる可能性もある」という意見がありました。
これまで多くの企業買収によって規模を拡大してきたコロワイドですが、大戸屋の看板を手に入れられても、フランチャイズ加盟店や従業員の心が離れてしまっては、店舗運営に苦労するでしょう。
コロワイドの財務状況も懸念されています。今回のTOBでの買い付け金額は、最大71.8億円になります。これまでに取得している約19%分と合わせると100億円程度の金額になるのです。
大戸屋の資産は2020年3月末で 32.7億円しかなかったうえ、4~6月は新型コロナウイルスの感染拡大によって赤字を計上しました。さらに資産は傷んでいるとみられています。コロワイドは大戸屋の買収によって70~80億円の「のれん」を計上することになるので、財務上のリスクを増大させることにつながるのです。
7月31日のコロワイドの株価は1,162円と、8日の終値2,113円に比べ45%も下落しています。コロワイドが大戸屋に仕掛けたTOBは、マーケットに歓迎されているとはいえないのです。
コロワイドは主力の居酒屋の売り上げが落ち込み、2020年3月決算の純損益が60億円の赤字に陥っています。また、今後も居酒屋の需要は戻らないと見て、直営店196店の閉店を発表。新型コロナウイルスで大きなダメージを受けた居酒屋に代わる稼ぎ頭を見つけることが必要な状況で、大戸屋の子会社化は大きな意味を持っているのです。
ただコロワイドと大戸屋の間には調理に対する考え方の違いがあります。コロワイドは外部で調理した食材を店内で仕上げる「セントラルキッチン」による効率化で、安い料理の提供を行っています。
一方の大戸屋は、店内での調理にこだわってきました。大戸屋の窪田社長は、「コスト削減しかいわないコロワイドでは、大戸屋の将来はない。店内調理もやめるつもりはない」と話しています。
新型コロナウイルスの感染拡大により外食産業に大きな逆風が吹く中、大戸屋の経営陣と株主はどんな選択をするのか。8月25日までの期間で行われるTOBの行方に注目が集まっています。
今回のコロワイドが大戸屋へTOBを実施し、成立しました。
コロワイド側から見ればTOBが成立したので成功であったと現時点では考えているかもしれません。
一方、大戸屋側の反発は大きく、今後の経営統合が上手くいくのかが1つの焦点となります。
M&Aは買収が完了してからが本当のスタートです。
企業買収をする上で、買収した企業の何に資産価値があり、買収後にどういったシナジー効果が発揮できるのか?
そのためには従業員などの協力が必要であるのか?
ハード面だけに価値を見出していたのか?
この辺りは敵対的買収を実行する上で、どの程度リスクを想定して実施したのかというのがポイントのように感じます。
実際に敵対的買収を実施した場合は下記のようなデメリットがあります。
敵対的買収は、その名のとおり買収先に敵対した形で買収するため、世間からのイメージはよくありません。
企業イメージが低下すれば、売上に直接的なダメージを受けるでしょう。
敵対的買収の場合、買収対象会社の経営陣のみならず従業員からも反感を買う可能性があります。M&Aでは、従業員の獲得も目的となるため、従業員が退職すれば十分なメリットを得られなくなります。
また、自社の従業員からも反感を買う可能性があるでしょう。敵対的買収の必要性を自社の従業員にも丁寧に説明することが大切です。
つまり、TOBの実施、敵対的買収の実施をする上では、買手企業側の確たる信念があり、誠心誠意で売手企業の理解を求めていくしか、買収後の成功はありえないと考えます。
今回はコロワイドの大戸屋に対するTOBについて考えてみました。
TOBとは「株式公開買い付け(Take Over Bid)」の略で、あらかじめ株数や期間、価格を公開したうえで、市場外で株式を買い取る行為です。
上場企業などで実施されることがほとんどで中小企業のM&Aにはあまりなじみがないことかもしれません。
今回の事例から中小企業のM&Aにおける教訓としては、買収後に双方が協力できない環境となれば、M&A自体が失敗に終わるということです。
これは買収交渉をする過程から相互の理解や買手企業が売手企業に対してどういった姿勢で対応していくのかというのがポイントです。
買手企業が傲慢な態度で、支援してあげるというようなスタンスでは、買収後に従業員の退職など、買収当時の収益力を維持することさえ困難になる場合もあります。
この点はしっかりと意識して買収交渉を行いましょう。
ご相談は無料です。お気軽にお声かけください。
Copyright© 2021 MAIN.co.ltd. All Rights Reserved.