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M&A財務戦略

買収した会社の繰越欠損金は利用できるのか?

2019/01/24

買収した会社の繰越欠損金の利用は一部制限が設けられたことで、利用規定が厳しくなりました。

今までは買収した先の繰越欠損金が利用できたケースでも、現在はできなくなっているなどいくつかの変更があっています。

つまり、そもそも繰越欠損金を利用したM&A、節税を目的とした繰越欠損金がある会社の買収などが成立しなくなっているとも言えます。

それでは、買収した会社の繰越欠損金の利用について詳しく見ていきましょう。

>>買手企業がM&Aをする目的とは?

繰越欠損金とは

そもそも繰越欠損金とは、過去事業年度ごとに発生した税務上の赤字のことを指し、最大で9年(平成30年4月1日以降に発生した欠損金は10年)は利益がでた事業年度において、過去の繰越された欠損金と相殺することができます。

つまり、過去に発生した欠損金を翌事業年度に繰り越せることから「繰越欠損金」と言われているのです。

繰越欠損金が利用できる条件として、事業年度に青色申告書で確定申告を提出している場合に翌事業年度に繰り越しすることがでます。

基本的には、資本金の額が1億円未満とされる中小企業は事業年度における繰越欠損金の制限はありません

また、会計上の赤字=税務上の赤字ではない点は注意しておきましょう。

会計上の赤字であっても、税効果として利用できないものもあります。

あくまでも繰越欠損金で利用できる赤字は税務上の赤字分のみです。

設けられた制限

以前は繰越欠損金を保有する会社を買収することで節税対策を行うスキームが実際にありましたが、制限がかけられたため現在は難しくなっています。

よく行われていた内容は、繰越欠損金を有する赤字会社をM&Aで買収したあと、合併や事業移管などでその会社に黒字の事業を移し、課税所得を圧縮するというものでした。

法人税の繰越控除を利用することで年度をまたぐ節税対策を狙うものでしたが、現在はこうした目的でM&Aを実行するのが難しくなる要件が設けられています。

支配事業年度前に繰越青色欠損金等を有している欠損等法人(被買収会社)が支配日から5年以内に「一定の事由」に該当した場合は、その事由が生じた事業年度以降、事由発生前の欠損金は繰越控除ができないことになりました。

なお、支配というのは発行済株式等の50%を超える株式を保有することですが、一定の事由とはどんな内容があるのでしょうか?

>>赤字の企業を買収するメリットとは?

繰越欠損金を使用できない「一定の事由」とは

繰越欠損金が使用できないとされる一定の事由には5つの項目があります。

1. 被買収会社が買収前に事業を行っていなかった場合

例えばよくあるのが、休眠会社を買収し支配状態にしたあとで新たな事業を開始するケースですが、この場合繰越欠損金は使用できません。

2. 買収前の事業を買収後にすべて廃止し、旧事業売上の5倍を超える資金の借り入れや出資を受けた場合

ただしこの場合は、たとえ買収したあと不採算事業を全部廃止したとしても、借り入れたり出資を5倍以上受けなかったりしなければ繰越欠損金を使用することができます。

3. 50%を超える株を保有している個人や会社が特定債権を取得したときに、旧事業売上の5倍を超える資金の借り入れや出資を受けた場合

4. 買収だけでなく法人に対する債権も低価格で取得した場合

その後事業を廃止しなかったとしても繰越欠損金の使用に制限がかかる可能性があります。

そして上記の場合、被買収会社を被合併会社とする適格合併を行ったり、残余財産が確定したりした場合にも、繰越欠損金は使用できません。

5. 被買収会社の役員すべてが退任し、使用人の20%以上が退職、かつ新事業の規模が旧事業の5倍を超えるような場合

ただしこの場合は被買収会社の役員が残ることで、たとえ売り上げが5倍以上になっても繰越欠損金は使用できることになります。

仮にそれらが叶わなくても、現状の売り上げが旧事業の売り上げの5倍に達しない場合も繰越欠損金は使用できます。

これらの事由に該当した場合、買収後の繰越欠損金の利用はできなくなります。

果たして節税はできるのか

繰越欠損金の使用に制限がかかる事由についてまとめましたが、大前提として支配状況にならなければ制限はかからないことになります。

つまり、特定の株主が被買収会社の50%超の株式を直接的にも間接的にも保有状態にならなければ、はじめから成り立つことはありません。

買収後も従来の事業を同様の状態で継続することで、制限がかかる前と同じように繰越欠損金を利用することは可能です。

たとえ不採算事業であってもM&A後も継続を決定する経営判断が行われる背景には、こうした思惑も絡んでくることになります。

状況を適切に判断すれば、繰越欠損金の使用を目的としたM&Aも実行可能と言えるでしょう。

ただし、買収後の状況によって実際どうなるか不透明な部分が非常に多いため、繰越欠損金の使用を主としたM&Aには慎重にならざるを得ません。

もともとM&Aには組織再編と税制の専門知識が必要ですが、事業承継に詳しいプロフェッショナルへの相談は必須と言えます。

M&Aを検討する際には、まず被買収会社の繰越欠損金は使えないかもしれないという認識を持ったうえで、事業目的に沿って将来的な道筋を固めることが基本スタンスと言えるでしょう。

中小企業のM&Aにおける繰越欠損金を目的とした買収

中小企業のM&Aにおいて、数年前までは、節税目的とした繰越欠損金のついた赤字会社の買収自体は行われていました。

現在も買手企業から節税目的での赤字会社の買収依頼などがありますが、基本的にはお断りしています

そもそもM&Aとは事業戦略上の手段の1つであり、節税自体が目的でのM&A自体、リスクなどを考えた場合は行うべきではないと考えます。

未だに売手企業からも買手企業からも繰越欠損金がついた法人格の売買のお問合せがありますが、税法自体でも繰越欠損金の利用に一定の制限があったのと同様に、法人格のみの売買も今後利用目的等も含めて減っていくことを望んでおります。

あくまでもM&Aは純粋な企業戦略として行われることを望んでおります。

また、赤字会社のM&Aにおいても、事業改善、買手企業による黒字化を前提とした企業買収であることが望ましく、繰越欠損金の利用は付随したおまけ程度の認識でいた方が、長期的な企業戦略にとってはプラスであると考えます。

過度な節税に思考をめぐらすよりも、適正な税金を払いながら企業成長を目指す会社を今後も支援していきたいですね。

まとめ

M&Aで買収した会社の繰越欠損金の利用については、一定の制限がかかり、今までよりも繰越欠損金の利用が厳しくなりました。

具体的な繰越欠損金が使用できないとされる一定の事由には5つです。

1.

被買収会社が買収前に事業を行っていなかった場合

2.

買収前の事業を買収後にすべて廃止し、旧事業売上の5倍を超える資金の借り入れや出資を受けた場合

3.

50%を超える株を保有している個人や会社が特定債権を取得したときに、旧事業売上の5倍を超える資金の借り入れや出資を受けた場合

4.

買収だけでなく法人に対する債権も低価格で取得した場合

その後事業を廃止しなかったとしても繰越欠損金の使用に制限がかかる可能性があります。

そして上記の場合、被買収会社を被合併会社とする適格合併を行ったり、残余財産が確定したりした場合にも、繰越欠損金は使用できません。

5.

被買収会社の役員すべてが退任し、使用人の20%以上が退職、かつ新事業の規模が旧事業の5倍を超えるような場合

あくまでも繰越欠損金を目的としたM&Aは行うべきではなく、買収した会社に繰越欠損金があった場合に利用できる条件を知る上で、上記に記載した内容を知識として入れておかれたら良いかと思います。

今後もM&Aによる企業成長を目指す会社を「ミツカル」では支援してまいります。

>>M&Aにおけるのれん代とは?


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