財務戦略用語集
2019/11/30
皆さんは「DIPファイナンス」という言葉をご存知でしょうか?
DIPファイナンスは企業再生で活用されるファイナンス手法の1つとして用いられるものです。
例えば民事再生の手続き中は基本的に金融機関からの追加融資は受けられません。申立後の二次倒産を防ぐため資金繰りを安定が重要であり、その際に利用されるのがDIPファイナンスです。
資金繰りも安定するため有益な方法ではありますが、残念ながら融資を受けるための条件がかなり厳しく、日本ではまだ普及していない、というのが現状です。
しかし、企業再生を図る際には重要な働きをしてくれます。
そこで今回は、DIPファイナンスを活用し、企業再生を行う方法とポイントについてご紹介していきましょう。
目次
DIP(Debtor in Possession)ファイナンスとは、簡単に言うと法的手続き後の運転資金などの融資に使われる方法です。
例えば、会社はさまざまな事情から事業継続が困難になる場合があります。
・注力していた事業が失敗、頓挫してしまった
・資金繰りが悪化してしまった
・景気が突然悪くなってしまった
事業継続が難しくなると民事再生法などを使って法的手続きを開始します。
DIPファイナンスでは、法的手続きを開始した後も旧経営陣がそのまま経営を行いながら、金融機関に融資してもらい企業再生や再建を図っていくのです。
DIPファイナンスは日本だとほとんど事例がありませんが、アルミサッシメーカーがDIPファイナンスにより経営再建した事例がありますので、どのような経緯で再生を図れたのか解説していきます。
60年近い歴史を誇るメーカーは、技術力も評価されており主にビル外壁におけるアルミサッシの製造と取付を行ってきました。
バブル期はかなり業績も良かったのですが、その後バブルが崩壊したことで市場規模も縮小、さらに価格競争が激しくなってしまったことや海外の安価な材料が流入してきたことで収益性が悪化してしまいます。
さらに、過剰な設備投資を行った結果、負債額が大きくなり、結果的に会社更生の手続きを開始することになりました。
銀行側は地域経済の活性化につながると見通した上で、DIPファイナンスを実施することになったのです。
1回目のDIPファイナンスでは4ヶ月にわたり数千万円を融資し、その後も同様に支援することを決定しています。
DIPファイナンスは企業が会社更生や民事再生を実施している最中に行われる融資ですが、具体的にどのタイミングで融資を受けられるようになるのでしょうか?
まずは民事再生の流れを簡単にご紹介していきながら、アーリーステージでのDIPファイナンス、レイターステージでのDIPファイナンスをそれぞれ解説していきます。
民事再生は、以下の流れで進んでいきます。
①民事再生の申し立てと保全処分の決定
②監督委員の選任・命令
③民事再生の手続きを開始・決定
④債権届出や財産評定、財産状況を報告
⑤債権への認否
⑥再生計画案の作成・決議
⑦計画案を認可、実行へ
最初に民事再生の申し立てを行います。
この時、同時に保全処分の申し立ても行っておかないと、債権者の財産が仮差し押さえ・仮処分されてしまうので注意しましょう。
なお、申し立てを行う際には代理人の弁護士を選定する必要があります。
弁護士を選ぶ際には、できるだけ民事再生の経験・実績を持つ弁護士に依頼しましょう。
申し立てが済んだら、裁判所から監督委員が選任され、再生債務者は監督委員の指示に従い、民事再生を進めていきます。
申し立て後、約2週間までの期間に民事再生手続きがスタートします。
債権者への説明会を開いた時、大きな反対が特になければ1週間以内に開始させられるでしょう。
万が一債権者から民事再生手続きを棄却されてしまうと、破産手続きを開始せざるを得なくなってしまうため注意が必要です。
手続きが開始したら債権届出と財産評定、さらに財産状況の報告を行います。
債権者が手続きを行うには必ず債権を届け出なくてはいけません。
債権がないと再生計画案を立てる際に資産・負債をそれぞれ具体的に把握できなくなってしまうためです。
なお、財産評定に関してはほとんどの場合、申立代理人をサポートする公認会計士が行ってくれます。
次に、民事再生を行う企業は債権の届け出を受けたら、債権が正しいかどうかの認否書を作成し、提出する必要があります。
間違っていた場合は話し合いで調整していきますが、それでも難しいなら簡易的な裁判を実施し、債権内容を決定します。
資産・負債それぞれの金額が明確になったら、再生計画案を作成します。
裁判所では期間を決め、それまでに再生計画案を提出しなくてはなりません。
計画案を提出したら内容に不備がないか審議していきます。
特に法律上の問題がなければ認可され、実行へと移されるでしょう。
民事再生・会社更生を行う企業は、申し立てから再生計画案が認可されるまでの間に、運転資金を調達するためのDIPファイナンスが行われます。
計画案が認可されるまでは、資金繰りが非常に厳しい時期となります。
この時、管財人が銀行などの金融機関へ資金ニーズに向けた対応を要請することも多いですが、対応を要請したとしてもわざわざ赤字企業に対して「融資したい」と考える金融機関は多くありません。
また、元々取引していた銀行に相談するわけではなく、別の金融機関へ相談を持ち掛けていきます。
なぜかというと、支援があればそもそも民事再生や会社更生といった状況にはなっていないはずだからです。
別の金融機関としては、資金力のある大手銀行や地元の有力地方銀行、さらに政府系金融機関などに依頼するケースも見られます。
再生・再建計画が進められ、計画を実行に移す際に必要な資金を融資する場合、レイターステージでのDIPファイナンスと呼ばれます。
再生計画を行うために必要なリストラ資金(早期退職に向けた準備資金など)を融資するといった事例もあります。
さらに、計画を実施する中で別除権を買い取り、その計画に沿って中長期融資(設備投資など)が行われることもあるでしょう。
「Exit Finance」と呼ばれる、再生債権などをリファイナンスし、法的整理をできるだけ早く終結するための融資も、レイターステージでのDIPファイナンス事例です。
DIPファイナンスでは基本的に旧経営陣に経営を任せることになります。
しかし、経営情勢など色んな事情があったとは言え、経営再建を図らなくてはいけなくなった理由は経営陣にあります。
通常であれば株主により退陣を求められる場合が多いです。
それでも旧経営陣に任せるのには理由があります。
DIPファイナンスだとオリジナルの事業や技術、製品などに対する評価が高く、再生が比較的容易だと考えられる事例も実は少なくありません。
一般的な破産手続きであれば、管財人によって陣頭指揮が取られますが、管財人はあくまでも法律手続きに特化するプロであり、経営のプロではありません。
それなら、会社・事業のノウハウを持っている旧経営陣に任せる方が、再生計画も進みやすいのです。
DIPファイナンスの先進国とも呼ばれるアメリカでは、銀行などが積極的に再生手続き中の会社へ融資を行うことも少なくありませんが、日本の場合はリスクを取りたくない銀行も多く、DIPファイナンスに対して消極的です。
また、この他にも様々な理由からDIPファイナンスを行いたくないと考える金融機関は多く見られます。
日本でのDIPファイナンスが簡単ではない理由もご紹介していきましょう。
DIPファイナンスは金融機関の自己査定に基づき、債権の分類を行うことが金融庁検査で認められています。
再生手続きを行っている会社ということは、今後も失敗する可能性・リスクが高いのではないかと判断されてしまうのです。
そうなってしまうとせっかく融資をしたにも関わらず、回収が困難になってしまいます。
そもそも、アメリカと日本でなぜこうも実施されている状況に違いが見られるのかというと、アメリカでは国がDIPファイナンスを奨励し、サポート体制も整っているのですが、日本では国によるDIPファイナンスに対するサポートが一切ないためです。
わざわざ不良債権を持ちたくないと考える金融機関が多いのは、ある意味致し方のないことだと言えるでしょう。
しかし、近年は一般の金融機関がDIPファイナンスに取り組む事例も増えてきています。
当然のことではありますが、基本的に再生の可能性が高い企業には融資が行われる可能性も高いです。
ただし、金融機関は客観的な視点から判断していくため、きちんと株主責任・経営者責任も明確にした上で実現性の高い再生計画を打ち出していく必要があります。
基本的に再生計画を作成するには、以下の4点を明記しなくてはなりません。
・経営改善に向けた基本方針や項目別の努力目標
・収支計画
・資金繰り表
・長期資金収支予想表
少しでもDIPファイナンスに乗り出してくれる金融機関を増やし、融資を受けやすくするためにも、現在から3年後の売上・利益推移を予測し、実現性の高い計画書を作成していきましょう。
倒産する企業の中には、優れた収益性を持つ事業があることも見られます。
経済合理性が高いと判断される事業を持つ企業は価値が認められ、融資される可能性が高いです。
特に、上場している類似企業・業種の株価から判断されることがあります。
会社が倒産に追い込まれることで、甚大な影響が出てしまうことも考えられます。
特に地元に根付いてきた中堅企業が倒産してしまう場合、地元の雇用問題につながる可能性が出てくるでしょう。
他にも、地域のインフラ事業を担う企業が倒産になった場合も、雇用だけでなく暮らしに直接的な影響を及ぼすかもしれません。
地域の活性化につなげるためにも融資を行うか判断していくのです。
>>赤字会社を再建する方法とは?黒字化へのステップとM&Aを選ぶメリット
民事再生法を利用した再生手法の中で、自力での再生を目指すならDIPファイナンスは必須とも言える要素です。
しかし、自力での再生が難しい場合でも、スポンサーを付ける「プレパッケージ型民事再生」というやり方もあります。
DIPファイナンスと異なる点は、スポンサー企業が資金を支援してくれるという点です。
再生手法は様々な種類がありますが、資金が必要となるのはどの手法においても変わりありません。
金融機関から受けるのか(DIPファイナンス)、それともスポンサー企業から受けるのか(プレパッケージ型民事再生)、最適な方法は企業によっても異なるでしょう。
また、民事再生など法的な手続きに入る前に、M&Aを活用する方法もあります。
最近では特に中小企業でもM&Aを取り入れる企業が増えてきています。
このように、企業再生の方法はDIPファイナンスやプレパッケージ型民事再生、M&Aなど様々な手法があるのです。
企業の状況に応じて、最適なやり方を選択するには、やはり早い段階で弁護士などに相談しておいた方がメリットも大きいです。
今回は企業再生の手法の1つでもある、DIPファイナンスについてご紹介してきました。
民事再生中、金融機関から追加融資を受けるのが難しい場合に経営の安定化を目指したファイナンス手法となります。
ただし、日本だとまだまだDIPファイナンスは普及されておらず、絶対に融資を受けられるとは言えません。
それでもDIPファイナンスやプレパッケージ型民事再生、M&Aなどを活用して手続き中の経営を安定させることもできるでしょう。
再生手続きに入った企業は素早く行動し、成果を出さないといけないため時間との勝負になります。
具体的に何をすれば良いのか分からない場合は、早めの相談・対応が重要なポイントです。
早く行動に移すためにも、まずは現在の状況を把握しておいた方が良いでしょう。
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