財務戦略
リスケ期間中でも銀行から融資は受けられるのか?

企業経営をしていれば、良いとき悪いときの「波」があるのは当たり前のことです。
名前を出せば誰もが知っている大企業も、経営危機を乗り越えた会社がいくつもあります。こうした悪い時をしのぐ手段がリスケ(リスケジュール)です。
今回は「リスケ期間中でも銀行から融資は受けられるのか?」をテーマに、リスケの基本から説明したいと思います。経営者の人はぜひ参考にしてください。
目次
リスケ期間中でも銀行から融資は受けられるのか?
今まで銀行では、リスケ中の新規融資は絶対と言って良いほど不可能でした。
では、どうしてリスケ中でも借りられるようになったのでしょうか?
その理由を順を追って見ていきましょう。
▶リスケとは
リスケ(正式には「リスケジュール」Reschedule)は、スケジュールを組み直すというビジネス用語に定着しています。
銀行融資においてリスケは、返済の見直しという意味で使います。
銀行では融資の「毎月の返済額」「返済期間」「金利」といった項目を、「条件」と呼んでいます。
リスケではこういった融資の条件を変更することから、銀行内部ではリスケのことを条件変更と呼んでいます。
返済が困難になった顧客の依頼に応じて、融資の条件を変更する「条件変更(リスケ)」は、リスケという言葉が定着する遙か以前から対処してきたことです。
▶リスケのメリット
リスケのメリットは「資金繰りが楽になる」ことと「新規融資と同じ効果もある」という2点です。
ⅰ)資金繰りが楽になる
リスケのメリットは「資金繰りが楽になる」という点に尽きます。
金利を引き下げたり、元金返済額を減らしたりして、とにかく毎月の銀行返済を少なくすることで資金繰りが楽になります。
ⅱ)新規融資と同じ効果もある
それまで毎月30万円だった返済が、リスケしてもらったことで5万円に減ったなら、浮いた25万円は毎月の事業資金として使えるのです。
つまり、キャッシュフローは改善されたと考えられます。
1ヵ月25万円なら1年間で見れば300万円となり、これはある意味でリスケするのは新規融資を受けたのと同じ、とも考えられます。
そもそも新規融資が受けられないのでリスケを依頼しているので、リスケをすることで融資を受けたことと同じ効果が得られます。
▶リスケのデメリット
リスケのデメリットはいくつもありますが、ここでは「借金が減らない」「リスケしたら延滞は許されない」の2つに触れたいと思います。
ⅰ)借金が減らない
あくまでリスケは「借金の棚上げ」です。いままで毎月元金を5万円返してきたなら、5万円×12ヶ月の60万円毎年借金が減っていたのに、リスケでこの元金返済を少なくしたら、当然借金の減るスピードもガタ落ちします。
最大限のリスケ対応では元金返済をゼロにして、毎月利息だけを払うケースもありますが、こうなると借金がまったく減らないことになります。
ⅱ)リスケしたら延滞は許されない
リスケ中は何があっても延滞はしないでください。
リスケとは、返済が困難な債務者の申し出に基づき、条件を緩和する特別な対応です。
ですから、リスケしたあとに延滞があれば
「返済困難と言われて、可能な水準まで減らしたのに、それも返せない」と見られます。
リスケで返済条件を緩和し、それでもなお返済が継続できないのは「もう返済が続けられない」ことを意味します。実際はそこまでの状況でなくても、銀行はそう考えます。
ですからリスケ中は何があっても延滞はしないでください。
リスケするくらいですから、苦しい状況であることはわかります。
しかし、銀行から救済策を講じてもらったうえで、延滞することは「返済の能力がない」あるいは「返済しようという意思がない」と判断されてしまいます。
こうなると、最近可能になった新規融資を受けることは不可能です。
そして、返済状況が改善されなければ、短時間のうちに全額返済を請求されるなど厳しい対応が予想されます。
銀行は一度支援の手を差し伸べましたので、その後の対応を責めることはできません。
延滞とは?
ここで、参考のため延滞についてもう少し詳しくお話しします。
▶返済当日に入金しても延滞?
毎月返済日が10日なら、その日のうちに入金すれば延滞にはなりません。また延滞損害金も発生しません。最近は夜間でも入金できる銀行が増えてきましたし、ネットバンキングなどで日付が次の日になるまでに入金すれば良いのです。
しかし銀行ではこれも延滞だと考えています。(これを「当日延滞」などと言います)
事務的には、前日残高をもとにコンピュータが判定して、返済日の早朝(深夜0時など)に返済金を引き落とすのが一般的です。
したがって、返済日当日の朝イチに残高がない取引先は『当日延滞』としてチェックされます。
もちろん、夜も含め当日中に入金すれば引き落としになりますし、朝イチからいきなり督促の連絡が来ることもまずありません。
しかし、銀行内部では返済日の当日に延滞した(実際はわずか数時間)という当日延滞が記録されます。
特にリスケした人が当日延滞をすると、要注意先としてマークされます。
すぐに何かのペナルティーはありませんが、マイナスイメージを持たれるのは間違いありません。
▶銀行への連絡が大事
そうはいっても苦しい状況なので、どうしても前日まで入金ができなかった場合はどうしたら良いのでしょうか?
どうしても返済日から2日遅れでないと入金できないときもあると思います。
返済が少しでも遅れそうなら、必ず前もって銀行に連絡してください。
ここも繰り返しますが「必ず」「自分から」「前もって」「連絡して」ください。
銀行では、返済が遅れそうだと事前連絡があれば
「この人は返済について意識しているし、責任感もある」
「言いにくいことも、自発的に伝えてくれる点は信頼がおける」
と好印象を持ってくれますし、そうなると強硬な督促はされません。
またこのときに大事なのは
「何日までには入金する」と日限を約束することです。
そうすれば銀行でも督促の手間が省けます。
払えないものは払えないので、無駄な仕事をしなくて済むというわけです。
もちろん延滞は良いことではありませんが、「必ず」「自分から」「前もって」「連絡して」くれたことで、その後も柔軟に対応してくれるはずです。
その逆に、連絡をくれない相手は信用しない、ということなので注意してください。
どうして、リスケ中は追加融資をしてくれないのか?
繰り返しになりますが、今までリスケ中に銀行は追加融資をしてくれませんでした。
これはとくに高度な話しではなく
「借金を返せない人に、追加でお金は貸せない」ということです。
もっと言えば、返済できなくなりリスケしているわけで、その人に新規融資をしても、それを返済できるわけがないという、ある意味シンプルな考え方です。
これをもう少しむずかしく表現すると「金融仲介機能を維持し、預金者を保護するために、貸出条件緩和債権を保有する債務者に追加融資はできない」となります。
こまかい説明はかえってわかりにくくなるので、要点だけお話しします。
預金を融資して、金利と一緒に回収し、満期で預金を返すのが金融仲介業務
融資したお金が回収不能になれば、預金が満期になっても返還できなくなる
預金が返せなければ金融仲介機能が維持できなくなり、預金者保護もできない
融資したお金は預金者のものなので、銀行には必ず回収する義務がある
そのため、返済できないからリスケした人(貸出条件緩和債権を保有する債務者) に追加融資はできない
という論法になりますが、ここで言っているのは「返せない人には貸せない」ということに変わりはありません。
なぜリスケ中でも融資を受けられるようになったのか?
繰り返しになりますが、これまで銀行はリスケ中の債務者には、原則新規の融資はおこないませんでした。
では、それがなぜ新規の融資を受けられるようになったのか?
ひとことで言えば行政の方針転換、つまり「国のお達し」と言うことになります。
要点だけ説明すると
国は保守的な銀行に対し、もっと積極的に金融仲介機能を発揮せよと尻を叩いた
そのために国は「多少のムリはしてもいいから」と手綱を緩めてくれた
「リスケ先が減少している銀行は、金融仲介機能を発揮している」となった
「リスケ先に新規融資している銀行も、金融仲介機能を発揮している」
逆に上記の2つともやらない銀行は、金融仲介機能を発揮していないことになる
国(実務では金融庁)の方針転換で「リスケしている債務者にも融資をしましょう」「そもそもリスケ先を減らしましょう」となったのです。
「借換え」による新規融資の方法とは

リスケ中に受けられる融資は主に2種類あります。
「借換(かりかえ)」と「再建計画が必須の新規融資(銀行オリジナルの融資も)」
です。
▶借換による融資
借換とは新規融資をして、リスケしていた融資を返済してリスケは無かったことにしてしまう方法です。
リスケ先は、リスケしている融資があるからリスケ先です。
借換えをしてリスケ融資がなくなれば、その債務者はもうリスケ先ではない、ということになります。
このように、銀行は手っ取り早くリスケ先を減らすため、リスケしている融資を借り換えしてしまうことにしたのです。
いわば借入のリセットです。
借換のときに、増額も可能です。たとえばリスケ中の融資が1,000万円あって、借換え融資で1,500万円借りることができれば、手許に500万円残ることになります。(保証料など諸費用は除く)
借換はプロパー融資、信用保証協会保証付き(マル保)融資の両方で可能です。
また、借り換えするとリスケ先ではなくなるので、新規の融資相談にも応じてくれます。
これまでは、業績悪化で返済が苦しくなったら、頭を下げて銀行にリスケ対応してもらい、悪いときをしのぐため辛抱強く頑張ってきたのです。それが、銀行の方から積極的に借り換えして(リスケは無かったことにしてくれて)更に新規融資の相談にも乗ってくれるようになったわけです。
銀行側の都合とはいえ、非常に大きな方針転換といえるでしょう。
▶再建計画が必須の新規融資
こちらは純然たる新規融資で、銀行オリジナルのプロパー融資が目立ちます。
ポイントは「再建計画」です。
国の方針が変わったとは言え、リスケしていた企業に対し新規融資をするのですから、企業と銀行双方にそれなりの「覚悟」が必要になります。
銀行側の覚悟とは、新規融資が回収できなくなるリスクです。それを少しでも回避するため融資には「再建計画」を必須としているところが多いです。
それ以外にも担保や保証人をとる、または金利を一般より高めに設定してリスクに備えます。
ⅰ)新規融資に必須の「再建計画」とは?
現在、銀行のホームページではリスケ中の債務者を支援するなど「金融仲介機能の発揮」「中小企業者の支援、サポート」を謳い文句にしているところも多いです。
銀行の規模や金利でアピールする時代は終わり、今はこういったキーワードが主流になっています。
独自の融資商品は銀行によって融資条件など千差万別ですが、共通しているのは
『この融資によって企業が再建できる』
『この融資が再建に不可欠』
という点です。
たとえば新規融資額が例えば1千万円の特別融資なら
この特別融資を1千万円借りて
そのお金でこのような施策をして(具体的に)
売上げや利益はこのように回復して(具体的に)
だから当社は立ち直れるます
といったシナリオが描けなければ融資を受けることはできません。
そして上記のように、明確な時期や金額など数値を盛り込んだ再建計画(シナリオ)の作成が義務づけられています。
ⅱ)なぜ再建計画が必要なのか?
1つ目は対外的なアピールです。
融資のもとになるのは主に預金です。(前出)預金者や外部に対して、
「リスケ中の債務者に新規融資するために、ここまで計画を立てさせてるんです!」というアピールです。
簡単に融資しているわけではないという銀行のアピールです。
2つめは破綻したときの予防策です。
リスケ中の債務者への新規融資は、国からも指示されていることではあっても、万一破綻した場合に審査体制などを問われては元も子もありません。
そこで、こうした再建計画を作らせることで、債務者の再建意欲と計画を確認して融資をしたと記録しておくのです。
なお、再建計画は場合によって銀行が作成を手伝ってくれることもあります。
これも中小企業の支援として銀行のアピール策なので、原則無料です。
積極的に相談すると良いでしょう。
ただし計画通り進まず、しかも最悪返済できなくなったら、計画を手伝ったといっても銀行は責任をとりませんので、注意してください。
融資が受けられない場合の対処法とは
各金融機関においてもリスケ中の融資実行が少しづつ増えてきています。
しかしながら、リスケしている企業の全てが借換や新規融資が受けれる訳ではありません。
そういった場合にどうしたら良いのか?
その対応策を見ていきましょう。
ⅰ)保証協会を「利用する」
リスケ中の融資が信用保証協会付き融資なら、信用保証協会に相談することもケースにより有効です。
注意点は「銀行に申込んで、断わられたあと相談する」ことです。
たとえば信用保証協会融資で増額込みの借換を銀行に申込んだとして、銀行員自身が忙しく、また増額部分の金額が少なければ(銀行員の実績も少なくなるので)真面目に対応せず、手続きを後回しにされたり、最悪では長期間放置されたりすることもあり得ます。
銀行員もノルマを抱え、こうした不誠実な対応は実際に現場でおきていることです。
ここまでではなくても、信用保証協会付き融資が銀行でなかなか進まないと、結局は断わられてしまう確率は高いです。
では、どうしたら良いのでしょうか?
その答えは「自分で信用保証協会へ相談に行く」ことです。
信用保証協会は、法律により設立された公的機関です。
公的機関ですから基本的に親切な対応をしてくれますし、かといってお役所的ではなく、親身になって相談にも乗ってくれます。(相談は無料です)
銀行経由の申込みがなかなか進まない、あるいは断わられたが何とかして欲しい。
こう言った相談にもちゃんと耳を傾け一緒に考えてくれます。
融資の回答は簡単に覆るものではありませんが、場合によってはゼロ回答が少額でも融資を受けられることになったり、今回ダメでも次回に希望がつなげたりと無駄にはなりません。
このように信用保証協会を「利用」することをおすすめします。
(ただし無用なトラブルを避けるため、信用保証協会へ相談する場合、前もって銀行には伝えておいた方が良いでしょう)
ⅱ)売掛金の活用
売掛金を担保にして融資を受ける(プロパー、信用保証協会融資)ことも選択肢のひとつです。
売掛金は「時期が来れば入金が約束されているお金」(これを「引当金」と言います)の一種です。売掛金が入金されたら返済すると約束して融資(引当融資)を受けられることもあります。
また融資ではなく、売掛金を買い取ってもらう「ファクタリング」も資金調達の一種です。上記の売掛金融資が不調の場合でも、ファクタリングなら調達できる可能性があります。
なおファクタリングは、手数料が一般の融資と比べて高額です。安易な利用は避けてください。
一度利用すると、そこから抜け出すことが困難です。
明確な出口(返済原資)があることを前提に利用することをお勧めします。
リスケをするかどうか?で迷ったら
メリットよりデメリットのほうが多い(前出)リスケですが、今では新規融資も受けられる可能性が高くなっています。
しかしながら、やはり一度リスケするとなかなかもとに戻すことはむずかしいのが一般的です。
リスケをするかどうか?で迷ったらデメリットを思い出してみてください。
借金が減らなくなる
延滞は絶対に許されない
新規融資を受ける時も再建計画など簡単にはいかない
こうしたデメリットを考慮して決断してください。
ファクタリングと同様に安易なリスケも企業にとってはマイナスに働くことの方が多いです。
しっかりと今後の資金繰りなどを考慮した上で決断しましょう。
まとめ
ここまでリスケについてさまざま説明してきましたが、リスケは決して悪いことではありません。
真面目に頑張っても上手くいかないときはあります、他人の助けを求めることも時には必要だと思います。
また真剣に向き合えば、銀行はなにかしら救いの手を差し伸べてくれるものです。
返済が困難になったと言っても、あくまで銀行からすれば企業は「お客様」です。
ですから必要以上にへりくだる必要はありません。
リスケは経営者に与えられた再チャレンジの機会です。
冷静に、かつ真剣に経営改善に向き合って下さい。