財務戦略
2020/07/19
企業買収において、ほとんどの会社が「買収ファイナンス」(第三者からの調達)を利用すると考えられます。
買収ファイナンスとは、簡単に言えば買手企業が買収する際に必要な資金を調達することです。
多額の資金が必要となるM&Aでは資金調達も重要なスキームの1つとなりますが、具体的にどのような資金調達方法があるのでしょうか?
今回は企業買収する際のファイナンスの手法や、LBOによるファイナンススキーム、買収ファイナンスを実施する際の手順についてご紹介しましょう。
目次
買収ファイナンスとは、企業買収(M&A)を目的として、資金調達から事業投資、株主への還元などの流れを最適化するために金融機関から融資を受けることを指します。
そもそもファイナンスは企業が資金を調達し、最終的に投資家へ還元するものかどうか判定するための方法です。
ファイナンスの中でも企業買収を目的にしたものが、買収ファイナンスとなるのです。
企業が買収するための資金を準備する場合、負債によって調達する方法と自己資本によって調達する方法があります。
負債によって調達する方法には金融機関から間接的に資金を得て、返済していかなくてはなりません。
一方、自己資本によって調達する方法は、自社の保有資金を繰り入れたり投資家から調達したりするため、基本的に返済しなくてもよいです。
ただし、買収ファイナンスでは多額の資金が動くことも多く、多くの企業は負債によって調達する方法で、金融機関から資金を得ています。
買収ファイナンスにも「シニア・ローン」と「メザニン・ローン」の2種類が存在します。具体的にどういったものなのか、利用するのにどのようなメリットデメリットがあるのか、解説していきましょう。
シニア・ローンとは、通常の貸付であり、ローリスクなローンと言われています。
返済の優先度が高く、まずはシニア・ローンから返済していくことになります。
シニア・ローンのメリットは、お金を貸す金融機関側からすると返済の優先度が高いことから返済率が高く、安心して貸し出しやすい点です。
ただし、借り手にとっては信用度が高い反面、借り手側の信用度も高くなければ借りられない場合もあり、厳しい審査基準が設けられてます。
メザニン・ファイナンスとは、シニア・ローンに比べて返済の優先度が低いローン(劣後ローン)を指します。
あくまで負債の中で返済の優先度が低いだけであって、株式と比較すると優先的に返済しなくてはなりません。
メザニン・ファイナンスは基本的にシニア・ローンだけでは希望額に達しなかった際に、その不足分を補うために活用するものです。
シニア・ローンよりも審査は厳しくないので資金調達しやすくなりますが、その分金利が高く設定されているので注意しましょう。
LBOは、Leverage Buy-Outの略称で、買収対象企業の資産価値や将来のキャッシュフローを担保に資金を調達する方法を指します。
買収ファイナンスには買手企業が主体で資金調達を行う「コーポレート・ファイナンス」と、SPC(特別目的会社)が資金調達を行う「ノンリコース・ファイナンス」の2つに分かれ、LBOはノンリコース・ファイナンスに分類されます。
本来、現時点での売り手企業の評価がいまいちだと担保にして資金を得るのが難しいと言われていたのですが、LBOによって将来の資産価値が評価されるようになり、資金を得やすくなりました。
LBOによるファイナンススキームでは、まず売り手企業に担保価値があるかどうか、どのくらいの資産を保有しているかどうかを調査していきます。
例えば、預貯金や有価証券などの換金性が高い資産を売り手企業が保有していれば、いわゆる有利子負債が少ない会社であり、担保価値があるためLBOも行いやすいでしょう。
買手企業と金融機関が受け皿会社(合同会社やSPC)を作り、受け皿会社が売り手企業を買収する形になります。
その後、受け皿会社と買収された会社が合併して新会社を設立することで、受け皿会社が負った負債や買収会社の資産・キャッシュフローなど金融機関から借り入れた分を返済していきます。
LBOは合併して設立させた新会社から金融機関への返済を行うため、実質投資額を抑えることができます。
ただし、買収後に売り手企業の経営改善に失敗してしまえば、大きな利益は得られなくなってしまうでしょう。
また、LBOを活用する際のLBOローンは高金利の傾向にあり、早期に返済していかないと負担が大きくなってしまいます。
金利以外にもローン契約書を作成する際の費用や弁護士に協力してもらう際にかかる報酬、融資にかかる手数料などもすべて負担することになります。
返済以外にも負担する部分が多いため、あらかじめどれほどのコストがかかるのか見通しを立てておいた方が良いでしょう。
実際に買収ファイナンス(シニア・ローン)を行う場合の手順も確認しましょう。
1.インディケーション・レターを取得する
2.コミットメント・レターを取得する
3.タームシートの合意を取る
4.ローン契約と買収契約を締結させる
5.担保を差し入れる
6.債権管理をしながらローンを返済していく
手順を1つずつ解説していきます。
インディケーション・レターは、金融機関から送られる融資金額や金利条件などが記載された資料を指します。
最初に金融機関と守秘義務契約を締結させ、買手企業が買収しようと考えている企業の資料を提出します。
そして金融機関がその資料を基に分析し、融資金額や金利条件を提案してくれるのです。
条件は適切か、交渉内容をどうするかなども金融機関側とまとめていきます。
コミットメント・レターは、金融機関が買収に対して融資する意思を示した文書となります。
その中には融資する意思だけでなく、ローン締結や融資を実行する時の条件なども記載されています。
コミットメント・レターを取得したら、今度はタームシートの合意を得ます。
タームシートにはより詳細な融資に関する記載(融資金額や金利、条件、期限前弁済、表明保証など)が必要であり、お互いが受け入れられるものを作成しなくてはなりません。
タームシートの合意が取れたらシニア・ローンの契約を締結させます。
ローン契約とほぼ同時に買収契約も締結されるのですが、これは買収に関する契約がシニア・ローンにも影響してくるため、大体同じタイミングで契約を締結させ、金融機関とその契約内容を共有しておく必要があるためです。
金融機関は、売り手企業の株式に関する担保を設定したり、買手企業の保証を差し入れたりするケースがあります。
なぜ、担保や保証の差し入れが行われるかというと、万が一債権を回収できなかった時に損失が出ないようにするためです。
担保や保証に関しては、融資条件にも明記される内容なのであらかじめ確認しましょう。
無事に融資を受け、売り手企業を買収したらローンの返済が始まります。
金融機関は正しく融資が買収に使われたかをチェックするためにモニタリングを実施します。
財務諸表や誓約事項などの書類提出から報告義務なども定期的に行う必要があるため、忘れないように注意しましょう。
返済は債務管理を行いながら、最終期限までの支払いに間に合わせるよう返済していきます。
大手金融機関になると買収ファイナンスの支援はもちろん、M&Aの企画からマーケティングまで実施し、売り手企業の候補も提案してくれる場合があります。
買収ファイナンスにおいては、企業評価を行ったりデューデリジェンスやクロージングの支援を行ったりと、幅広いサポートを実施してくれるでしょう。
ここまで支援してくれるならM&Aの仲介会社を挟まなくても良いのではないかと思われてしまうかもしれませんが、金融機関からはお金の支援をしてもらい、M&A自体の支援は仲介会社に任せましょう。
理由としては、金融機関が売り手企業から紹介料をいくらかもらっている可能性が高いためです。
この場合、金融機関は優先的に紹介料をもらった企業をおすすめしてくるでしょう。
すべての金融機関が紹介料で優先して紹介しているわけではありませんが、中にはそういった金融機関があるかもしれないので、自社にとって公平性を保つためには第三者への相談してみてください。
中小企業でも会社を買収するには、まず資金を調達しなくてはなりません。
買収資金を準備する方法はいくつかあるので、どのような方法があるのかチェックしてみてください。
現預金は内部留保が非常に潤沢である場合、買収資金として活用される場合があります。
そもそも現預金は手元にあっても価値が生まれないため、積極的に収益を作っていくためにも買収資金で活用されます。
ただし、買収には数百万円程度で済むものから数億円にも上る規模の案件も少なくありません。
現預金だけで賄えない場合は、銀行からの借入などを利用することになります。
銀行からの借入は、中小企業のM&Aで行う資金調達方法として最も多く見られる手段です。
会社の業績にも特別問題がなく、信用保証協会の融資枠があれば銀行からの借入を考えた方が良いでしょう。
ただし、買収価額が純資産よりも大きく上回っているケースや、売り手企業が無形固定資産を多く保有しており実態がつかみづらいケースだと金融機関側は融資を許可しなくなる可能性があるので注意が必要です。
買収後の不確定リスクが高い企業はその分審査のハードルも高いと言えるでしょう。
MBOとは、経営者や従業員が自社株を取得することで経営権を得る方法です。
MBOによる買収では、LBOとは違いまずは売り手企業の株式をまとめて買い、受け皿会社と売り手企業を合併させます。
もしも自社株を取得するための資金力が不足している場合、MBOだけでなくLBOも併用して実行する場合もあります。
ファンドなど第三者から出資金を受け入れ、その資金を買収ファイナンスで活用する場合も見られます。
あくまでも支援を受ける形になるので返済する必要もなく、しかも銀行からの借入に比べてリスクコントロールがしやすい方法となります。
支援を受けるということは自社の株主になってもらうことを意味しているため、自社にとってのメリットデメリットを十分に把握せず出資を受け入れてしまうと後々大変なことになってしまうので、税理士などにも相談しながら出資を受けるかどうか考えてみましょう。
買収ファイナンスは、M&Aを実施する上では必ず把握しておきたい事項です。
資金調達の方法はいくつかありますが、一番は自社にとっても最も有益なものを選ぶことが重要なポイントとなります。
金融機関から買収を持ち込まれたり、資金調達の方法を提示されたりすることもありますが、自社ではなく金融機関側が有益となる案件を勧めている可能性もあるので注意が必要です。
あくまで資金のサポートだけは金融機関に相談し、M&Aはアドバイザーや仲介会社に相談するようにしましょう。
ご相談は無料です。お気軽にお声かけください。
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