企業事例
2021/01/05
経営者保証とガイドライン、これだけでもうむずかしいと感じる人もいると思いますが、資金調達では避けて通れない内容です。
そこで今回は、経営者保証ガイドラインの活用についてお伝えし、経営者にとって役立つ話をしていきます。
今後の参考にしてください。
目次
まず「経営者保証」「ガイドライ」の2つに分解してみましょう。
経営者保証とは「中小企業など小規模な事業者が融資を受けるときの、経営者による個人保証」
要は、自分の会社が融資を受ける時、社長さんが会社の保証人になることです。
会社が借金する時、社長が保証人になるのは当たり前で、逆に社長が保証人にならないほうが不自然。これが今までの常識でした。
しかし、現在はこの経営者保証(経営者が保証すること)を見直そうという流れになっているのです。
(信用保証協会融資など、すでに保証人なしが主流になりつつあります)
そのまえに、そもそも保証人になるとは、どういうことでしょうか?
<保証人になることの意味>
・個人が誰か(会社や自分以外の人)の借金返済を保証すること
・債務者(お金を借りた人)が返せないとき、借金支払の義務を負う
どれも当たり前と言えば当たり前のことですが、これが自由な資金調達の障壁になっているとガイドラインでは指摘しています。
そこで、こうした障壁をなくすべく、金融庁や中小企業が主導して作成したのが「経営者保証のガイドライン」です。
<参考>『経営者保証ガイドライン』 一般社団法人全国銀行協会ホームページより
ここまでまとめると、
経営者が会社の保証人になるのが「経営者保証」
経営者保証の問題点を解決するため作られたのが「経営者保証のガイドライン」
となります。
「経営者保証のガイドラインって、何のためにできたの?」
「ガイドラインは、なんの役に立つのか?」
みなさんが知りたいのは、この部分だと思います。
繰り返しになりますが、ガイドラインが適用されると、会社なら保証人なし(または必要最小限の保証人だけ)で融資を受けることができ、これこそが経営者保証ガイドラインの活用です。
>>自己破産したら具体的にどうなるのか?
「もう時代に合ってないから、経営者の保証はなしにして、会社の業績などを重視し、融資をしましょう。」
経営者保証ガイドラインにはこのような趣旨が書かれています。
これを作ったのは金融庁と中小企業庁(注)、融資してよと言われているのは金融機関です。要は国が銀行に、「保証人なしで融資をしましょう」「融資する仕組みを作りましょう」と命令しているのです。
ところで、ガイドラインには関連する法令はないので、法的拘束力もありません。
しかし、金融機関はガイドライン通りに取り組んでいます。
なぜなら国からのお達しは、命令、法令、指示、依頼などの区別なく、どれもやらなくてはいけないのは一緒で、法的拘束力の有無は関係ないのです。
ここまでのポイントを、ガイドライン本文から抜粋します。
『経営者保証ガイドライン』 一般社団法人全国銀行協会ホームページより
目的について:
主たる債務者、保証人及び対象債権者の継続的かつ良好な信頼関係の構築・強化とともに、中小企業の各ライフステージ(中略)における取組意欲の増進を図り、ひいては中小企業金融の実務の円滑化を通じて中小企業の活力が一層引き出され、日本経済の活性化に資することを目的とする
法的拘束力について:
経営者保証の準則(*)
このガイドラインは、経営者保証における合理的な保証契約の在り方等を示すとともに主たる債務の整理局面における保証債務の整理を公正かつ迅速に行うための準則であり、(中略)
法的拘束力はないものの、主たる債務者、保証人及び対象債権者によって、自発的に尊重され遵守されることが期待されている。
(*拘束力はない規則として「準則」と言う表現が使われています。この準則はガイドラインで良く出てきますので、覚えておくと役に立つでしょう)
金融機関に対して:
このガイドラインに基づき経営者保証に依存しない融資の一層の促進が図られることが期待されるが、主たる債務者である中小企業の法人個人の一体性に一定の合理性や必要性が認められる場合等において経営者保証を締結する際には、主たる債務者、保証人及び対象債権者(*)は、このガイドラインに基づく保証契約の締結、保証債務の整理等における対応について誠実に協力する。
(*対象債権者=金融機関)
ガイドラインの適用対象とは、要するに保証人なしで融資を受けられる資格のことです。その対象は限定され、また適用されるには要件(条件)があります。
「国の肝煎りで経営者保証のガイドラインができたので、銀行から事業資金融資を受けるとき、保証人が不要になる。でも、そうなるには条件がある」といえます。
適用対象(資格があるもの)は以下の通りです。
<経営者保証ガイドラインの適用対象>
・債務者が中小企業である
・経営者が保証人である(例外あり 後述)
中小企業で、社長が保証人になっているという、これまでならよくある状態です。
この状態なら、要件を満たせば、社長が保証人にならなくても融資が受けられる資格がある、ということになります。
なお例外とは、次の2つです
<適用対象の例外>
●「実質的な経営権を有している者(①)、営業許可名義人(②)又は経営者の配偶者(当該経営者と共に当該事業に従事する配偶者に限る)が保証人となる場合」
社長以外の人間が、会社を実質的に経営している場合や、社長の奥さん
が実質的な経営者の場合です。
例) お父さんは社長だけれど、会社を動かしているのはお母さん
営業許可名義人とは、飲食業の免許は社長の奥さんが持っていると言ったパターンです。
●経営者の健康上の理由のため、事業承継予定者が保証人となる場合
社長が病気などで、後継の息子さんが会社を動かしている場合などです。
いずれにせよ、経営者とは別に実質的に会社を動かしている人は保証人になる(保証人にならなければいけない)場合があります。
そして共通しているのは、会社を実質的に支配している人間が保証人になる場合は経営者と同一とみなすという点です。
「債務者(お金を借りる側)」と「債権者(お金を貸す金融機関のこと)」それぞれに条件が課せられています。
債務者側の要件は以下の3つです。
<経営者保証ガイドライン~債務者(お金を借りる側)の要件>
ⅰ)法人と経営者との関係の明確な区分・分離
ⅱ)財務基盤の強化
ⅲ)財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
ⅰ)法人と経営者との関係の明確な区分・分離
これは、会社と経営者の関係をしっかりと線引きすることです。たとえば双方のお金のやり取り(役員報酬、会社と社長間でのお金の貸し借りなど)が、社会通念上適切な範囲を超えないものとするなど、法人個人の一体性の解消に努めることが求められます。
ⅱ)財務基盤の強化
財務内容や業績を改善して返済能力の向上、信用力を強化する、つまり「保証人なしでも銀行が融資してくれるくらい、良い会社になりなさい」と言う意味です。
ⅲ)財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
債務者は、資産負債、事業計画や業績改善策の進捗など、金融機関から要請があれば、正確かつ丁寧に情報を示すことで経営の透明性を確保しなければいけません。
「銀行から求められたら、すぐに説明できるように透明性、つまりガラス張りでオープンな経営をしなさい」という意味です。
債権者側の要件は以下の3つです。
<経営者保証ガイドライン~債権者(金融機関)の要件>
ⅰ)経営者保証の機能を代替する融資手法の充実
ⅱ)要件充足が見込まれるときは、経営者保証を求めない融資を検討する
ⅲ)担保提供があれば、経営者保証を求めない融資を検討する。
ⅰ)経営者保証の機能を代替する融資手法の充実
経営者保証を求めない代わりに、金融機関は自らのリスクを考慮した融資手法を、充実させることとされています。
具体的には「停止条件又は解除条件付保証契約」「ABL」「金利の上乗せ」などがあります。
「停止条件又は解除条件付保証契約」(コベナンツ融資)
:停止条件付保証契約とは債務者が特約条項(「コベナンツ」といいます)に抵触しない限り保証の効力が発生しない(停止条件)保証契約。
解除条件付保証契約とは、債務者が特約条項(コベナンツ)を充足する場合は保証債務が効力を失う(解除条件)保証契約
「ABL」
:(Asset Based Lending) 流動資産担保融資のこと
「金利の上乗せ」
:保証人がいる融資よりリスクが高いので、金利も高くするということ
コベナンツ融資、ABL、そして金利上乗せなど、どれも債務者にとっては有利な話しではありません。
条件で縛られたり(コベナンツ)金利を高くされたりと、保証人が不要となる代償で、金融機関からすればリスクが高まる代償と言えます。
ⅱ)要件充足が見込まれるときは、経営者保証を求めない融資を検討する
債務者が以下(イ~ニ)の要件を将来的に充足すると見込まれるなら、経営者保証を求めないことを検討する。
イ) 法人と経営者個人の資産・経理が明確に分離されている。
ロ) 法人と経営者の間の資金のやりとりが、社会通念上適切な範囲を超えない。
ハ) 法人のみの資産・収益力で借入返済が可能と判断し得る。
ニ) 法人から適時適切に財務情報等が提供されている。
(前出「経営者保証ガイドライン~債務者(お金を借りる側)の要件」と同じです)
ⅲ)担保提供があれば、経営者保証を求めない融資を検討する
あくまで自発的に債務者側から不動産などの担保提供(物的担保と言います。ちなみに保証人は人的担保)があれば、経営者保証なしでの融資を検討する
ここでは実際に実行された事例を2つほど紹介します。
●事例1「借換え」~コロナウイルス実質無利子融資
新型コロナウイルスの「実質無利子融資制度」は信用保証協会融資で、一定期間利息が国から補填される(実質無利子)、また保証料も免除される場合もある融資です。
この実質無利子融資制度を使って、既存の信用保証協会融資をまとめて、さらに増額して融資を受けた。既存の融資は社長が保証(経営者保証あり)、実質無利子融資では保証人なし(経営者保証なし)で借換えることができ、事業資金の調達と同時に経営者保証を無くすことができたというわけです。
(*借換可能な融資など、必ず金融機関や信用保証協会に確認してください)
●事例2「事業承継」~先代社長(故人)が保証した融資
社長だった父が死亡し、2代目は故父が保証していた融資(経営者保証あり)を含めて事業を引き継いだ。先代存命中から実質経営者として2代目が努力していた甲斐もあり、事業承継をするとき、先代が保証していた既存融資を、経営者保証なしの融資に切り替えることができた。会社に借金があることは変わらないが、経営者保証がなくなったことで、2代目は積極経営に邁進できている。
このように、まだ一般的ではありませんが、金融機関はケースバイケースで要件を満たす先であれば、経営者保証ガイドラインを適用しています。
銀行の立場からすれば、大前提として
・法人と経営者との関係の明確な区分・分離
・財務基盤の強化
・財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
となることは言うまでもありません。
経営者が会社の保証人になるのが「経営者保証」
その問題点を解決するため作られたのが「経営者保証のガイドライン」
そして経営者保証ガイドラインの適用を受けるための要件は
・法人と経営者との関係の明確な区分・分離
・財務基盤の強化
・財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
これらは事業が目指すべき姿であり、そういった意味では単に経営者保証をなしにするだけでなく、永続的な発展のために為すべきことと、決して無駄な努力ではないと思います。
ご相談は無料です。お気軽にお声かけください。
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