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業種別M&A

卸売業界の特徴とM&Aの動向について解説

卸売業界について

卸売業とは、商品流通部門で小売業以外の物品販売業をいいます。具体的には、メーカーから商品を仕入れ、あるいは市場から食材を買いつけて、小売業者に商品を販売します。商品流通の過程で、中間で利ざやを稼ぐ業種のため、商品価格を押し上げる要因となっています。

ただ業界としては、インターネットを利用した通信販売が広がっていることに加え、中間業者を省き生産者と直接取引する「中抜き」が進んでいることで、業界全体として立場は厳しくなっています。

また後継者問題や経営問題を抱えている中小企業が多いので、事業承継を目的としたM&Aが増加しているのです。

酒類・食品卸売業界とは

小売業の大規模化

卸売業界で、もっとも規模が大きいのが酒類・食品卸売業界です。卸売業界の市場規模は52兆円で、そのうち酒類卸が約9兆円です。食料・飲料メーカーから商品を仕入れ、総合商社や全国卸などの特約店や地場卸を通じて、食品スーパーやコンビニエンスストア、GMS(総合スーパー)、ホームセンターなどの小売、外食、旅館・ホテル、中食などに納入しています。

ただ、コンビニエンスストアやGMSなどを中心に小売業の大規模化が進んでおり、1次卸やメーカーから直接小売業へ納入する「流通の中抜き」が拡大傾向にあります。

食料・飲料卸業界の商品販売額の推移は、以下の通りです。

食料・飲料卸売業の商品販売額推移
食料・飲料卸売業及び大手小売業態の販売額推移

酒類・食品卸売業界はスケールメリットの追求による上位集中化が進んでいる

酒類・食品卸売業界は、販売や物流などの機能に応じてメーカーから支払われる「リベート」に収益を依存しているので、有利な取引条件を獲得できるスケールメリットが求められています。リベートとは、メーカーが卸売業者に支払う割戻金です。卸売業者を支援したり、販売を促進したりする目的でしたが、最近は廃止するメーカーが増えています。

また小売業の大規模化による卸の中抜きが進んでいます。全国展開している大手小売りチェーンと取引を継続するためには、冷凍食品・菓子・日用品・ペットフードなど、さまざまな商品を全国一括で納入できる、全国化やフルライン化が求められているのです。

そのため、中小地場卸が総合卸に飲み込まれる形での上位集中や、署鵜品補完型の卸同士の合従連衡が急速に進んでいます。

また、総合スーパー(GMS)やコンビニエンスストアなど、大規模な小売業との密接な関係構築が競争優位の確保から必要なため、大規模小売業との結びつきが強い総合商社傘下の大手食品卸も多くなっているのです。

さらに大手小売業の台頭により、規模や物流効率化によるローコストオペレーションだけでなく、小売店の売り場作りの販促提案など、付加価値の提供も重要な要素になっています。

卸売業界の課題

市場規模の縮小

卸売業においては、小売業が減少していることによる市場規模の縮小、有力卸売企業間による合併・統合などで寡占化が進んでおり、厳しい経営環境に直面しています。とくに小売業は少子化などの影響により事業所数が大きく減少しているだけでなく、EC(電子取引)やSPA(製造小売)の進展など、プレイヤーが多様化しています。今後はデータの活用などにより、消費者の需要を取り込むためのさまざまな工夫が必要になるでしょう。

またコンビニエンスストアをはじめとする大手小売事業者では、全国規模の店舗をカバーできる物流網が要求されています、規模を活かして小売事業者自身が調達するケースも増えているので、卸売業にとっては厳しい環境になっているのです。

卸売業・小売業の販売額の推移

粗利益率の減少

卸売業は企業の規模に関係なく、粗利益率が総じて減少傾向にあります。粗利益率とは売上高に対する粗利益(売上総利益)の割合で、「売上総利益率」や「粗利率」とも呼ばれる収益性分析の指標です。

粗利益率が伸び悩んでいる原因としては、商品の販売価格が伸び悩む中、商品の仕入れ価格が上昇していることがあげられます。このような状況を打破するため、流通加工による付加価値サービスの提供や、オリジナル商品の開発に取り組んでいます。

しかし流通加工においては、中小企業には余裕はありません。また、オリジナル商品の開発にも取り組んでいますが、期待した成果はあまりでていないのが現状です。

飲食卸は単価が低く商材の在庫管理が重要

飲食卸では一つひとつの商材の容量が小さく、単価が低い傾向にあります。ですから、小ロットで多数の商品を納入し、売上や利益を稼ぐビジネスモデルになるのです。また得意先ごとに商品ニーズが異なるので、取扱商品も多くなりがちです。

また、飲食料品は賞味期限があり、商材の有効期限がはっきりしています。短いものは数日で劣化し、価値がゼロになってしまいます。「在庫の中に賞味期限切れのものはないか」「仕入れから長期間経っているものがないか」などを商品ごとに確認する必要があるのです。

加工食品を取り扱っている場合でも、賞味期限とは別に「3分の1ルール(納品期限)という習慣があり、それを超えた商品は小売店に納品できません。たとえば賞味期限が1年の商品の場合、その3分の1の製造から4ヶ月以内に小売店に納品しないといけないのです。これらの点を考慮した上で、実際に取引できる在庫なのかどうかを判断する必要があります。

卸売業界のM&A

食品卸業界は良くも悪くも古い体質の業界です。業界全体で老舗企業が多いので、新規参入ができる余地はなかなかないといえます。

また、加工卸会社はほとんど大手の食品メーカーの資本が入っています。ですからメーカーが自社製品を卸会社で作り、小売店で販売するというケースも多くなっているのです。

食品業界を中心に再編が活発

業界全体の経営環境の悪化を背景に、国内の食品メーカーや卸では、生き残りをかけた再編の動きが活発化しています。2015年に、丸紅と食品卸の国分は卸売事業での業務提携について合意。国分は丸紅子会社の冷凍食品卸に51%出資して傘下に収め、丸紅は国分子会社の常温食品卸に20%出資しました。お互いに出資しあうことで、弱点の補完を行なおうとしたのです。

卸売業界では、地域でのシェア獲得を目的としたM&Aが増えており、とくに最近の再編では都市部を中心として市場占有率をどう獲得するかが課題になっています。ゼロから地域を開拓するのではなく、すでにある程度シェアを持っている中堅・中小企業を買収し、市場占有率を獲得しようとする動きが主流になっているのです。

また海外への進出も課題の一つで、国内企業が海外企業を買収する動きも広がっています。ターゲットとなっているのは、日本のブランドが力を持っているインドネシアやタイ、マレーシアなどのアジア諸国。海外からの仕入れに頼っている材料の価格高騰に加え、消費者からの値下げ要請もあり、その板挟みを打ち破るためにもM&Aが加速しているのです。

食品業界のM&Aの特徴

食品卸業界は古くからの仕組みが続いていて、昔からの取引関係で成り立っている業界です。ですから、オーナーが変わった後に同じように事業を継続できるとは限らず、未経験者や異業種の人が買い手になった場合にM&Aが実現しにくい業界なのです。

食品卸売業界にいたことのない人が会社を買ったとしても、取引先が「昔からの関係性のあるオーナーが変わるのであれば、取引を中断する」という可能性もあるのです。

そのため、食品卸売業界では同業種間のM&Aが多い傾向にあります。ライバルとして事業を進めてきた会社の1社の業績が悪化した場合、同じ組合内の競合の会社に買い取ってもらうというケースが多いのです。ただ最近では、サプライチェーンの風下にいる外食チェーンが食品卸会社を買収し、お互いの持っていない部分を補うようなM&Aも増えています。

M&Aの事例

事例1:やまやがチムニー買収

2013年、酒類販売の「やまや」は、居酒屋「花の舞」などを展開するチムニーを子会社化して販路を拡大しました。花の舞いではそれまで提供していなかったワインを積極的に販売するようになりました。

やまやとチムニーは、2018年に居酒屋の「つぼ八」を買収。居酒屋「花の舞」などのブランドを展開するチムニーの店舗数は、つぼ八と合わせて1,000を超えました。やまやとチムニーは、川下にあたる飲食業界へと積極的に勢力を拡大しています。

またM&Aによって、親会社やまやの酒類の販売拡大にもつなげているのです。風上の企業が川下の企業を買収し、大きく成功した事例といえるでしょう。

事例2:トラオムが丸三北栄商会を買収

鳥貴族のフランチャイズ店をもっとも多く展開している「トラオム」は、2015年に北海道に進出。民事再生法を申請していた札幌の水産加工会社「丸三北栄商会」のスポンサーになり、傘下に収めたのです。

トラオムは神奈川や大阪でフランチャイズを展開しているだけでなく、自社でも居酒屋を展開しています。仕入先である北海道の水産会社を買収することにより、企業の強みを生かしてよいものを安く仕入れ、商品を低価格で顧客に提供できるようになりました。

通常は川上の企業が川下の企業を買収するというのが一般的です。しかし近年の食品卸売業界では、風下にいる企業が風上の企業を買収する事例も増えているのです。

まとめ

卸売業界について教えてください

卸売業界は商品・流通部門で、小売業以外の物品販売業をいいます。メーカーから商品を仕入れ、もしくは市場から食材を買い付け、小売業者に商品を販売しているのです。ただ、インターネットを利用した通信販売が広がっていることに加え、中間業者を省き生産者と直接取引する「中抜きが進んでいることから、業界の立場は厳しくなっています。

酒類食品卸売業界の特徴について教えてください

卸売業界でもっとも規模の大きいのが「酒類・食品卸売業界です。市場規模は52兆円で、そのうち酒類卸が9兆円規模になっています。食料・飲料メーカーから商品を仕入れ、総合商社や全国卸などの特約店や地場卸を通じ、ホームセンターやGMS(総合スーパー)、外食、旅館、ホテルなどに納入しています。

食品卸売業界の最近の傾向はどうなっていますか

食品卸売業界は販売や物流などの機能に応じて支払われる、メーカーからの「リベート」に収益を依存しています。ですから、有利な取引条件を獲得できるスケールメリットが求められているのです。

また小売業の大規模化による「卸の中抜き」が進んでおり、全国展開している大手小売チェーンと取引を継続するためには、さまざまな商品を全国一括で納入できる全国化やフルライン化が求められています。

卸売業界の問題点について教えてください

卸売業界は、小売業が減少していることに加え、有力卸売企業間による合併や統合などで寡占化が進んでおり、厳しい経営環境に直面しています。またコンビニエンスストアをはじめとする大手小売事業では、全国規模の店舗をカバーできる物流網が要求されているのに加え、規模を生かして小売事業者自身が調達するケースも増えているので、卸売業にとっては厳しい環境になっているのです。

飲食卸の在庫管理について教えてください

飲食卸では商材の容量が小さいので、単価が低い傾向にあります。小さいロットで多数の商品を納入し、売上や利益を稼ぐビジネスモデルなのです。また飲食料品は賞味期限があり、食材の有効期限がはっきりしています。

短いものは数日で劣化し、価値がゼロになってしまう恐れがあるのです。また賞味期限とは別に3分の1ルール(納品期限)という習慣があるので、これらの点を考慮した上で実際に取引できる在庫があるかどうかを判断する必要があるのです。

卸売業界のM&Aについて教えてください

卸売業界は古い体質の業界です、業界全体で老舗企業が多いので、新規参入できる余地はなかなかないといえます。また加工卸会社は、ほとんど大手の食品メーカーの資本が入っています。ですから、メーカーが自社製品を卸会社で作り、小売店で販売するというケースが多くなっているのです。

卸売業界のM&Aにはどのような特徴がありますか

卸売業界では地域でのシェア獲得を目的としたM&Aが増えており、最近では都市部を中心として市場占有率をどう獲得するかが課題になっています。ゼロから地域を開拓するのではなく、ある程度のシェアを持っている中堅・中小企業を買収し、市場占有率を獲得しようとする動きが主流になっているのです。

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