情報通信業界の動向とM&Aについて
情報通信技術(ICT)とは、パソコンだけでなくスマートフォンやスマートスピーカーなど、さまざまな形状のコンピューターを使った情報処理や情報技術の総称を言います。よく知られる言葉にIT(情報技術)がありますが、ICTはITにコミュニケーションの要素を含めたものです。
●ITとICTの違いとは
IT業界は、情報技術に関わる業界を意味しています。情報化が進み、さまざまな場面でITが活用されるようになりました。AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)といった関連分野にも注目が集まり、IT業界は、今後も重要性を増してくるでしょう。
ICTとITはほぼ同じ意味の言葉ですが、何を重視するかによって使い分けされています。ITは、ハードウェアやソフトウェア、インフラなどコンピューター関連の技術を指す用語です。
それに対し、ICTは情報を伝達することを重視し、教育や医療などにおける技術の活用、またはその方法論といったものを指します。また、省庁によっても使い分けがされており、総務省では「ICT」、経済産業省では「IT」を使っているのです。
情報通信業界について
情報通信業界の売上高
総務省の情報通信白書によると、情報通信業界の2017年度の売上高は49兆7,496億円で、構成割合をみると、電気通信業が35.2%、ソフトウェア業が31.1%、情報処理・提供サービス業が12.9%となっています。
2010年から2017年までの売上高の推移をみると、2016年にわずかに減少したものの、おおむね増加傾向にあります。
海外の情報通信業との比較
平成時代は、インターネットと携帯電話が広く普及しました。ただ、我が国のICT投資は停滞していました。米国や欧州と比べても低い伸びにとどまっていたのです。この背景として、1980年代末から1990年代にかけ、企業の情報システムの構築などはコア業務ではないとして外部委託が進んだことがあります。ICT投資額の推移は、以下の通りです。
各国のICT投資額推移の比較は、以下の通りです。
我が国では、SIer(エスアイヤー)と呼ばれる、ICT企業による受託開発中心の情報システム構築という構造が形成されました。しかし、とくに非製造業においてICTの導入が十分な効果を発揮できず、企業のICT投資を消極的にした可能性があります。
情報通信業界の現状と課題
それでは情報通信業界の現状と課題について、それぞれ業界別に見ていきましょう。
電気通信業界
電気通信業界の主要企業はNTTドコモ、ソフトバンク、KDDIなどの携帯キャリアです。また、携帯端末メーカーとして、シャープ・京セラ・ソニーの3社があります。一番規模の大きい電気通信業とは、固定電話や携帯電話などの電気通信サービスを提供する事業です。急速なICTの発展により、電気通信事業は変化の激しい業界といえます。
NTTドコモやKDDIなどの通信キャリアは、端末メーカーから携帯電話端末を買取り与えた上で販売代理店からユーザーへ販売するとういう独自の習慣を築きました。
販売奨励金により端末の販売価格を低く抑え、携帯電話の普及を促すことはできましたが、2016年4月に発表された総務省のガイドラインによって、端末の実質ゼロ円以下は禁止されています。
また、利用者が支払う通話料金や基本料金からコストを回収するため、端末にSIMロックをかけていました。利用者の他社への流出を避けることが狙いでしたが、サービスを提供する通信業者を変更する際や、海外渡航時に現地のSIMカードに差し替えて利用するといった行為を妨げるなど、ユーザーの利便性を失わせていました。
そこで総務省は、「SIMロック解除に関するガイドライン」を改訂。2015年から事業者に対して改定されたガイドラインに従い、SIM ロックの解除を義務化したのです。
情報サービス業
情報サービス業の主要企業はNTTデータ・大塚商会・野村総合研究所・伊藤忠テクノソリューションズ・日本ユニシスなどです。
情報サービス業の2017年度の売上高は、17兆5,091億円で、1企業当たりの売上高は50.1億円です。売上高を情報サービスの業種別にみても、すべての業種が昨年度より増加しています。
情報サービス業界の構造はゼネコン業界と似ています。システムインテグレーターが顧客企業から受注(元請け)し、システム開発などを2次請け、3次請けの企業に発注するピラミッド構造になっているからです。元請け・下請け別の企業数割合は、資本金規模が大きくなるに従い元請けの割合が増加し、下請けの割合が減少しています。
情報通信サービス業の分類としては、ハードウェアメーカーの「メーカー系」、子会社として独立した「ユーザー系」、特定の親会社をもたない「独立系」に分けられます。2008年のリーマンショックからIT投資を抑える傾向にありましたが、景気回復により官公庁などからの受注が増加しており、売上は回復傾向にあります。
しかし単純にシステムが売れるような状況ではなく、ソリューションビジネスなど付加価値をつけた、いわゆる提案型システムが主流になっています。ソリューションビジネスとは、顧客の抱える問題を解決するため、ハードウェアやソフトウェアなどのシステムの提案や構築をすること。つまり、ユーザーや企業の課題を解消するシステムの需要が増えてきているのです。
またセキュリティ関連の需要も高まっています。情報危機管理の意識が高まり、震災など「いざという時」に復旧できる体制づくりを、各企業が積極的に進めているからです。それらの課題に対してのソリューションビジネスは、今後も好調に推移する見込みです。
ソーシャルゲーム
ソーシャルゲームの主要企業は、サイバーエージェント・バンダイナムコエンターテインメント・LINE・ ディー・エヌ・エー・コロプラなどです。
ソーシャルゲームは成長が著しい業界です。市場規模は1.5兆円前後で、パソコンとモバイルがソーシャルゲーム市場の70%以上を占めています。パソコンゲーム専業は少なく、モバイルゲームはSNS運営会社が中心。ただ、業績の安定化が難しく、新たな収益の構築が課題です。
ソーシャルゲーム業界の業績は、ヒットタイトルの有無や短期的な人気による変動が激しいからです。サイバーエージェントはネット広告、ディー・エヌ・エーはプロ野球チーム運営やEC(電子商取引)と、多角化できている企業もあります。しかし、ガンホーやmixi をはじめとする多くの企業は、過去の主力タイトルが売上の過半を占めています。ですから、各社とも新たな収益の柱を構築することが課題なのです。
情報通信業界のM&A
それでは、主要業界のM&Aについてみていきましょう。
電気通信業界
アップルの iPhoneがヒットし、Android搭載端末ではサムスン電子が攻勢を強める中、開発の遅れた国内メーカーは苦境に立たされています。京セラが三洋電機の携帯事業を買収したほか、日立製作所・NEC・カシオ計算機の3社が携帯電話事業を統合し、2010年6月にNECカシオモバイルコミュニケーションズを設立(現在は解散し、NEC が携帯電話事業を引き継ぐ)など大型再編が続きました。
しかし2013年に NEC がスマホ事業から撤退し、パナソニックも同年秋に個人向けスマホから撤退するなど、かつて10社以上存在していた国内携帯電話端末メーカーは、シャープ・京セラ・ソニーの3社に集約される形となっています。
情報サービス業
国内では、システム子会社を対象としたM&Aが活発です。2011年に住友商事子会社の住商情報システムと独立型のCSKが合併し、SCSKが発足。富士通による日揮情報システムの買収、古河インフォメーション・テクノロジーの買収などが行われました。
また、海外企業を対象とするM&Aも増加。NTT データは、2010年にアメリカのキーンインターナショナル、2016年に米国パソコンメーカーのデルからITサービス関連事業を取得するなど、M&Aを通じて海外事業を積極的に展開しています。
日立製作所は、2018年7月に米国子会社であるHitachi Vantara(日立ヴァンタラ)を通じ、REAN Cloud LLC(リーンクラウド)を買収しました。日立製作所はリーンクラウドが有するパブリッククラウド関連のサービス提供能力を獲得し、アメリカを中心としたグローバルにクラウド関連サービス事業を、さらに拡大する目的でM&Aを実施したのです。
ソーシャルゲーム
ソーシャルゲームのトレンドは、プラットフォームの開発会社が、コンテンツ拡充のためにソーシャルゲームの開発会社をM&Aするケースです。また海外展開するため、海外のゲーム会社とM&Aを行うケースもあります。
2014年株式会社Cygamesは、株式会社WITHの株式を取得して子会社化しました。優れたゲーム制作力をもつ「WITH」を子会社化することにより、よりよいゲーム制作のための相乗効果を図るためです。
また、2019年には株式会社セガゲームスが「Two Point Studios Limited」の全株式を取得してM&Aを行いました。Two Point Studios Limitedがもつ優れた開発ノウハウとコンテンツ開発力を活かし、グローバルなゲーム市場での存在感を高めることが狙いです。
情報通信業界の課題と
M&Aによる解決策
情報通信業界の課題は技術者の高齢化と人材不足です。 近年、ソーシャルゲーム業界の拡大により若い技術者の多くがゲーム業界へ流れました。 ソーシャルゲーム業界自体も急激な成長を通して積極的なM&Aを繰り返しています。
逆に、中小企業の情報サービス業界に目を向けると、従業員の高齢化が進み、人材の確保が困難であるため、仕事はあるが受注するだけの人材がいないという状況です。
人材不足の企業における選択肢として、M&Aによる事業の拡大、人材の確保を選択する企業もありますが、大手に比べ資金が潤沢でないためM&Aによる拡大戦略をとれない中小企業がほとんどです。 経営者自身も60歳を迎え、企業の選択としては、第三者への売却(M&A)が重要な選択肢となります。 中小企業の情報サービス業はM&Aにより後継者問題を解決し、大手情報サービス会社はM&Aにより人材確保を行うというのが今後の流れになるでしょう。
M&Aによる売却で重要なポイントは、従業員のスキルと年齢構成です。
スキルと人材の年齢よって企業評価は全く変わってきます。
業界としては、あと1~2年が需要のピークであると考えられています。
まとめ
情報通信業界の特徴について教えてください
情報通信技術(ICT)とは、パソコンだけでなくスマートフォンやスマートスピーカーなど、さまざまな形状のコンピューターを使った情報処理や情報技術の総称。よく知られる言葉にIT(情報技術)がありますが、ICTはITにコミュニケーションの要素を含めたものです。
情報通信業界の規模はどの程度でしょうか
2017年度の売上高は49兆7,496億円で、構成割合をみると、電気通信業が35.2%、ソフトウェア業が31.1%、情報処理・提供サービス業が12.9%となっています。
主要産業である電気通信業界の現状について教えてください
電気通信業界とは、固定電話や携帯電話などの電気通信サービスを提供する事業。急速なICTの発展により、変化の激しい業界です。通信キャリアが端末メーカーから携帯電話端末を買取り、販売代理店からユーザーへ転売するという独自の商習慣を築きました。
電気通信業界のM&Aはどのような状況でしょうか
携帯端末メーカーは大型再編が行われてきました。アップルのiPhoneがヒットし、Android端末では韓国のサムスン電子が攻勢を強めたからです。かつては10社以上あった国内携帯電話端末メーカーは、シャープ・ソニー・京セラの3社に集約されています。
情報サービス業の現状について教えてください
情報サービス業の2017年度の売上高は17兆5,091億円で、1企業当たりの売上高は50.1億円です。情報サービス業の構造はゼネコンに似ています。システムインテグレーターが顧客企業から受注し、システム開発などを2次請け、3次請けの企業に発注するピラミッド構造になっているからです。
情報サービス業のM&Aはどのような状況でしょうか
国内ではシステム子会社を対象としたM&Aが活発です。また、海外企業を対象とするM&Aも増加しています。
ソーシャルゲーム業界の現状やM&Aはどうなっていますか
ソーシャルゲームは成長が著しい業界です。ただし、業績の安定化が難しく、新たな収益の構築が課題。ガンホーやmixiなど多くの企業は、過去の主力タイトルが売上の過半を占めている状態だからです。
ソーシャルゲームのM&Aのトレンドは、プラットフォームの開発会社がコンテンツ拡充のためにソーシャルゲームの開発会社をM&Aするケースです。また、海外展開するために海外のゲーム会社とM&Aを行う場合もあります。